嗅覚受容体クラス選択の遺伝学的操作による嗅覚行動の制御とその分子基盤の解明
【研究キーワード】
嗅覚 / 嗅覚受容体 / 嗅覚行動 / 嗅神経細胞 / 神経細胞分化 / 転写因子 / 神経分化
【研究成果の概要】
嗅覚受容体は大きく2つのクラス、「魚類から哺乳類に共通した」Class Iと「陸生動物特異的な」Class IIに分類される。嗅神経細胞は、その分化過程においてどちらかのクラスの受容体を発現するように運命づけられる。最近、我々はこの嗅神経細胞の二者択一的運命決定の制御因子として転写因子Bcl11bを同定した。本研究課題では、Bcl11bによる嗅覚受容体クラス選択の制御機構の全容を明らかにすることを目的としている。これまでに、嗅神経細胞の運命選択がそれぞれの嗅覚受容体のエンハンサーレベルで制御されていること、さらにBcl11bがClass I 嗅覚受容体のエンハンサー、Jエレメントに抑制的に働くことを明らかにした。
2020年度、Jエレメントのエンハンサー活性に必要最小領域を同定するとともに、エンハンサー活性に必須なモチーフ配列を同定した。しかしながら、これらの領域にはChIP-seq法によって同定したBcl11b結合部位は含まれていなかったことから、Bcl11bは直接Jエレメントに結合して抑制的に働くのではなく、間接的にエンハンサー活性に作用することがわかった。
嗅神経細胞の運命選択の破綻によって発現する受容体のクラスに偏りが生じることで、生得的忌避物質に対する嗅覚行動が大きく影響された。この変異マウス高次脳における嗅覚情報処理経路の解析を進めた結果、Bcl11b遺伝子の欠損によって、嗅上皮腹側で異所的にClass I嗅覚受容体を発現した嗅神経細胞は、嗅球腹側から前嗅核腹側領域を活性化していたことから、少なくとも、嗅神経細胞から嗅球、前嗅核までは、嗅神経回路は発現する嗅覚受容体の種類ではなく、嗅神経細胞の嗅上皮上の場所によって決まるのではないかと考えられた。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(B)
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)