Discovery Sagaサイレントキーワード俯瞰

層状の1次元的な秩序相、スメクチックC(SmC)相から3次元的に等方的なキュービック(Cub)相への相転移のメカニズムおよびCub相の分子凝集構造の解明と相転移の制御を目的に検討を行った。2つの同族列、4'-n-alkoxy-3'-nitrobiphnyl-4-carboxylic acids(ANBC-n)と1,2-bis(n-alkoxybenzoyl)hydrazines(BABH-n)に関し、得られた重要な知見を以下に列挙する。
(1)ANBC-nの温度とアルコキシ鎖長nに関する相図を明らかにした。Cub相温度域には空間群Ia3dとIm3mに属する2種類のCub相構造が存在することを見出した。
(2)BABH-nの相転移挙動の検討も開始し、相図を明らかにした。ANBC-nとは反対に、n=8-10ではCub相の高温側にSmC相を発現、n=7-12のCub相はいずれもIa3d型であり、格子定数はANBC-nとは反対に、温度に対して正の増加を示した。これらの知見より、ANBC-nとBABH-nの2つの同族列におけるCub相の発現とその温度依存性は、構成分子中のアルコキシ鎖部分と水素結合系の2つの部分の温度変化の競合により決まる分子の平均形状の変化で説明できるとの構造制御に関わる重要な結論を得た。
(3)両同族列に関し、静水圧力下の相転移挙動を検討、圧力の増加によりCub相よりもSmC相が安定化することを明らかにした。しかし、n=22のANBCでは、Cub相は400MPaの圧力まで安定に存在した。またBABHでは、n=11,12で常圧では現れないSmC相が誘起され安定化し、さらには、n=10のBABHにおけるSmC相とCub相の相境界の温度と圧力の依存性から、高温側のSmC相の方がCub相よりモル体積が小さいことが示唆された。
(4)両同族列に関し、相転移制御を目的に、2成分系相図と電場印加効果を検討している。交流電場印加によりCub相が安定化する現象が見出されているが、さらに検討中である。この検討の過程で、SmC相からのCub相への転移温度は、熱力学的因子ばかりでなく速度論的因子にも支配されていることが明らかになりつつある。

【研究分担者】
野島修一	東京工業大学	大学院・理工学研究科	助教授	(Kakenデータベース)
田中克史	京都工芸繊維大学	繊維学部	助教授	(Kakenデータベース)