東南アジア・オセアニアにおける国家と国民文化の動態
【研究分野】文化人類学
【研究キーワード】
国家形成 / 国民形成 / 大衆文化 / 伝統文化の変容 / 東南アジア / オセアニア / 芸能 / 芸 / 国家の文化管理 / 伝統の再編成 / ナショナリズム
【研究成果の概要】
この研究は、主に人類学者の共同作業により、国家形成、国民形成といった現代的テ-マに、人類学の立場からどんな貢献が出来るかをさぐったものであり、東南アジア・オセアニアの新興諸国家の事例を比較し、さらに日本における現代の大衆文化・地方文化の問題も、比較の座標を得る為に取り上げた。これまでの人類の研究方法は、近代国民国家とか世界システムといった大きな対象を扱うのに、かならずしも向いていなかった。むしろそれは、フィ-ルドワ-クの方法を核として、国家よりも小さな言語文化集団あるいはエスニック・グル-プと呼ばれるようなものを把握するのに有効なものであった。しかし、本研究を通じて、今日の現実の地方的諸社会の人類学的研究が、近代国民国家形成の動きと密接な関係にあること、人類学のミクロで集約的な研究方法が、この相互過程の解明に有効であることが明らかになった。この研究が採用したのは、国家や国民を、その政治的・経済的中心、すなわち政府の側や、あるいは国際関係の視点からではなく、地方諸社会の側から見ていくという方法である。比較を通じて明らかになったのは、(1)国家形成の過程が、中央政府の明確で系統的な政策よりも、むしろ役所の書式や言語様式、環境美化運動、学校の制服、道路標識といった、一見些細で日常的なものを通じて、大衆の中に浸透していること。(2)マスメディアなどを通じた均質な大衆文化の形成が、国民の形成に役割を果たしていること。(3)にもかかわらず、国家の存在はむしろ国際関係に支えられる面が強く、国家と国民、そして諸地方社会の間には、断絶をふくんだとりあえずの共生という関係が、支配的なことである。
【研究代表者】