水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子を開発
水中環境での接着・成形に応用できる新たな高分子材料
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
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【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
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2026年9月30日 公開
ポイント
セメントのように水と混ぜて練るだけで自然に固まる性質を持つ高分子を開発水となじみやすい分子が、水との反応で水になじみにくい構造になる仕組みを活用
水中でも簡単に成形・硬化できる高分子材料への展開に期待
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 物質理工学院 応用化学系の高橋明助教、徳満玲伊大学院生、大塚英幸教授らの研究チームは、粉末状の高分子を水と混ぜて練るだけで柔らかくなり、その後、水との反応によって水になじみにくい性質へと変化しながら自然に固まる「水硬性(すいこうせい)[用語1]」を示す高分子を開発しました。水硬性を示す代表的な材料であるセメントは、粉末を水と混ぜて練ることで自由な形に成形でき、その後自然に固まります。この簡便な性質により、セメントは私たちの生活や社会基盤を支える重要な材料として広く利用されています。一方、高分子材料では、空気中の水分を利用して固まる材料は存在するものの、セメントのように水と混ぜて練ることで材料全体が自然に固まる性質を実現することは困難でした。
今回の研究で高橋助教らは、シラトラン[用語2]という分子に着目しました。シラトラン自体は水となじみやすい性質がありますが、水と反応すると水になじみにくいシルセスキオキサン構造[用語3]へと変化します。そこで、シラトランを組み込んだ高分子を新たに合成したところ、その粉末を水と混ぜて練るだけでパテ状に柔らかくなり、その後、時間がたつと水になじみにくい性質を持つ硬化物へと変化しました。さらに、この変化を利用することで、水中で自由に成形体を作製できるだけでなく、ガラス、ステンレス、木材などさまざまな材料を水中で接着できることも実証しました。
本成果は、これまでセメントに代表される無機材料の性質とされてきた水硬性を、高分子やその他の有機材料でも広く実現可能にする、新たな設計指針を示しました。高分子は軽量なだけでなく、柔軟性や透明性など性質の異なるさまざまな材料を用途に応じて簡単に作り分けられるため、セメントとは異なる特性を持つ新たな水硬性材料の実現につながると期待されます。
本成果は、9月10日付(現地時間)に、ドイツの学術出版社Wiley-VCHが発行する化学専門誌「Angewandte Chemie International Edition 」のオンライン版に先行公開されました。
背景
水との反応を利用して固まる材料は、簡単な操作で形を作ったり、もの同士を接着したりできることから、さまざまな場面で私たちの生活や社会を支えています。中でもセメントは、粉末に水を加えて練ることでペースト状に変化し、その後自然に固まる簡便さから、古くから建築などに利用されてきました。このような性質は水硬性と呼ばれ、セメントに特有の複雑な化学変化に由来することが知られています。ただしセメントは、硬く丈夫な構造物を作ることに適している反面、幅広い性質の材料を作り分けることは容易ではありません。もし、さまざまな性質の材料をより簡単に作製できる有機材料で同様の水硬性を実現できれば、セメントとは異なる特徴を持つ材料や、新たな技術への展開が期待されます。水硬性を実現するためには、一見相反する2つの性質が必要になります。はじめに水と混ぜて形を作る時には、材料が水を内部まで取り込んで柔らかくなるための「水になじみやすい性質」が必要です。一方、固まった後でも水になじみやすいと、水を取り込んだままとなってしまい、材料の強度や安定性が損なわれる可能性があります。そのため、硬化後は「水になじみにくい性質」へと変化することが望まれます。すなわち、成形時には水になじみやすく、硬化すると水になじみにくくなるという性質の変化を、いかに1つの材料の中で実現するかが大きな課題でした。
研究成果
今回の研究で本研究チームは、シラトランと呼ばれる分子に着目しました。シラトランは水になじみやすい一方で、水と反応するとシラトラン由来の化学構造が互いに連結し、水になじみにくいシルセスキオキサン構造へと変化します(図1a)。そこで、このシラトランを高分子に組み込むことで、水を加えると内部まで水を取り込んでいったん柔らかくなった後、反応が進むにつれて水になじみづらくなりながら自然に固まることで、セメントのような水硬性が再現できると考えました(図1b)。
(a)シラトランと水の反応による化学構造および水とのなじみやすさ(親和性)の変化。
(b)シラトラン構造を有する高分子と水との反応に伴う高分子構造の変化の模式図
実際に、シラトラン構造を組み込んだ高分子を新たに合成して、その粉末に水を加えたところ、柔らかく粘着性のあるパテ状へと速やかに変化しました。その後は徐々に硬化が進み、柔らかいゲルを経て、硬い固体(硬化物)へと変化しました(図2)。重要な点として、得られた硬化物に水を加えても柔らかくなることはありませんでした。これにより、セメントのような水硬性を持つ高分子の開発に成功しました。

最初の粉末に水を加えると、速やかに水を吸ってパテ状となり、柔らかいゲルを経て、硬いゲルへと変化した。洗浄・乾燥後には、水を加えても柔軟化しない、剛直な硬化物が得られた。
この硬化物を作製するプロセスでは、高分子に水を加えて練ることでパテ状になった段階で、自由な形に成形することができます。型に詰めてブロック状に成形した場合も、棒に巻き付けてらせん状に成形した場合も、その形を保ったまま硬化しました(図3a、b)。こうした成形から硬化までの一連の工程は、全て水中で行うことができました。また、破損したガラス製の容器をパテ状の高分子で補修したところ、補修後の容器に水を入れても漏れる様子は見られませんでした(図3c、d)。さらにガラス以外にも、ステンレス板や木材などさまざまな材料を接着できました(図3e)。

(a)型を用いて作製したブロック状の硬化物。
(b)棒に巻き付けて作製したらせん状の硬化物。
(c)開発した高分子で補修したガラス製の容器と、(d)補修後の容器の漏水試験。
(e)水中接着試験の概要と、ステンレス、ガラス、木材に対する接着強度。
社会的インパクト
今回開発した高分子は、加熱や紫外光、化学薬品などを必要とせず、水と混ぜて練るだけで望みの形状に固めることができます。そのため、より簡単で安全な材料加工や、製造工程で消費するエネルギーの削減につながる可能性があります。また、この高分子は水中でも成形から硬化、接着、補修までを行えることから、ダムや水路、トンネル、海洋構造物など、水中や水に濡れた環境での接着や補修への応用も期待されます。さらに、この仕組みをさまざまな高分子に広げることで、高分子ならではの性質を持ったさまざまな材料を作製できるようになります。将来的には、粉末と水を混ぜるだけで、目的に合った性能を持つ材料を誰でもその場で作ることのできる、新しいものづくりにつながります。
今後の展開
今回開発した技術を応用することで、さまざまな高分子に水硬性を持たせることができます。今後は、高分子の化学構造と硬化後の性質との関係を詳細に明らかにすることで、今回得られたような硬い材料だけでなく、用途に応じた性質を持つ材料を自在に作り分けるための設計指針の確立を目指します。付記
本研究は、JSTさきがけ「持続可能な材料設計に向けた確実な結合とやさしい分解」(研究総括:岩田 忠久)における研究課題「物性と再利用性を高次両立する剛/柔可変高分子の創製」(研究代表者:高橋明、グラント番号:JPMJPR23N5)の一環として行われました。用語説明
- [用語1]
- 水硬性:水との反応によって硬化し、水にぬれても物性や形状が安定した硬化物を与える性質。主にセメントの分野で使用される。
- [用語2]
- シラトラン:3本の腕からなるカゴ型の有機分子であり、その内側でケイ素原子と窒素原子が結合した構造を持つ。水とよくなじむ性質を持つ一方、水と反応して分解し、続いてケイ素原子同士が酸素を介して次々と結合する反応を起こす。
- [用語3]
- シルセスキオキサン構造:ケイ素と酸素が交互に多数つながった基本骨格を持ち、それぞれのケイ素に炭化水素が結合した構造を持つ物質。本研究では、シラトランと水の反応によって形成され、高分子の鎖同士をつなぎあわせる役割を担う。
論文情報
- 掲載誌:
- Angewandte Chemie International Edition
- タイトル:
- Hydraulicity in Organic Polymers Enabled by Hydrophobization upon Water-Triggered Curing of Hydrophilic Chains
- 著者:
- Rei Tokumitsu, Shio Uebo, Akira Takahashi, and Hideyuki Otsuka
- DOI:
- 10.1002/anie.1794764
研究者プロフィール
高橋 明 Akira Takahashi
東京科学大学 物質理工学院 応用化学系 助教
研究分野:高分子化学、分子工学
大塚 英幸 Hideyuki Otsuka
東京科学大学 物質理工学院 応用化学系/総合研究院 自律システム材料学研究センター 教授
研究分野:高分子反応、機能性高分子設計
関連リンク
プレスリリース 水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子を開発—水中環境での接着・成形に応用できる新たな高分子材料—(PDF)「壊れやすさ」を設計して、壊れにくいエラストマーへ | Science Tokyoニュース
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大塚 英幸 Hideyuki Otsuka | Science Tokyo研究情報データベース(理工学系)
高橋 明 Akira Takahashi | Science Tokyo研究情報データベース(理工学系)
大塚研究室
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東京科学大学 物質理工学院 応用化学系助教 高橋 明
- atakahashi@mct.isct.ac.jp
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