接着剤は固まった後も内部で動いていた−ゲル化後の構造再編成を発見!
自動車や航空機の軽量化を支える新規接着技術への応用に期待! 工学研究院 田中敬二 主幹教授
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 接着剤が固まる過程で起こる「縮み」現象と、「内部構造の変化」との関係を明らかに |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
オープンアクセス/分子動力学シミュレーション/内部構造/分子構造/ゲル化/高分子/材料科学/樹脂/エネルギー消費/持続可能/持続可能な開発/エポキシ樹脂/内部応力/熱硬化性樹脂/シミュレーション/ナノメートル/ネットワーク構造/マルチスケール/モビリティ/軽量化/航空機/高分子材料/自動車/動力学/分子動力学/構造変化/分子設計
2026.09.18
研究成果Physics & ChemistryMaterialsTechnologyEnvironment & Sustainability
発表のポイント
接着剤が固まる過程で起こる「縮み」現象と、「内部構造の変化」との関係を明らかにした。接着剤が固まり始める「ゲル化(※1)」後は体積収縮が抑制される一方で、構造が再編成されることを実証した。
ゲル化を境に、「緻密(ちみつ)化」から「構造再編成」へ切り替わることを見いだした。
発表概要
世界のエネルギー消費の約3割はモビリティ(人や物の移動)によるものであり、その低燃費化に向けて自動車や航空機などの構造部材の軽量化が求められています。軽量化の実現には、金属や高分子材料などの異種材料を適材適所で組み合わせることが重要であり、それらを強固に接着するための高性能な接着技術の開発が課題となっています。九州大学大学院工学研究院応用化学部門/次世代接着技術研究センターの田中敬二主幹教授/センター長らは、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 大規模プロジェクト型「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」を遂行しています。熱硬化性樹脂は硬化反応によって3次元ネットワーク構造を形成しますが、その過程で生じる硬化収縮は内部応力の発生や界面剥離による接着強度の低下を引き起こすため、長年にわたり材料信頼性を左右する重要な課題とされてきました。このため、硬化反応中に材料内部でどのような構造変化が生じるのかを分子レベルで理解し、精密に制御することが求められていました。
九州大学大学院工学研究院応用化学部門の田中敬二主幹教授らの研究グループは、モデルエポキシ樹脂を対象に、体積収縮測定、広角X線散乱測定、および全原子分子動力学シミュレーションを組み合わせることで、マクロな収縮挙動と分子レベルの構造変化との関係を詳細に解析しました。その結果、材料全体の体積収縮は主にゲル化前に進行し、ゲル化後は著しく抑制される一方で、分子間距離やフリースペース(※2)はゲル化後も変化し続けることを明らかにしました。
本成果は、「硬化収縮が分子構造の変化を直接反映する」という従来の理解を刷新し、ゲル化を境として「マクロな緻密化」と「構造再編成」が分離することを初めて実証したものです。とくに、ゲル化後にはネットワーク構造による拘束下で局所的な構造再編成が支配的となる新たな分子描像を提案しました。本成果は、熱硬化性樹脂の硬化収縮、それに伴う内部応力の発生機構の理解を深めるとともに、異種材料接着剤の性能向上に向けた分子設計の加速につながることが期待されます。
本研究は、JST未来社会創造事業ならびに経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)の支援を受けて実施されました。本研究成果は、Nature Portfolioの材料科学分野のオープンアクセス誌「Communications Materials」オンライン版に2026年9月18日(金)(日本時間午後6時)に掲載されました。
本研究成果の概要図

熱硬化性樹脂の硬化過程における分子描像。(左から)反応前の液体状態、ゲル化前での緻密化状態、ゲル化状態、ゲル化後での拘束状態を示す。図中の点線は体積収縮前の体積に対応し、ポストゲル拘束状態における矢印は分子相関を示す。
用語解説
(※1)ゲル化硬化反応の進行により、分子同士が化学結合によって連結され、材料全体に広がる3次元ネットワーク構造が形成される現象。
(※2)フリースペース
架橋ネットワーク中に形成される局所的なナノメートル(1メートルの10億分の1)程度の空隙。分子によって占有されていない空間であり、その大きさや分布は材料の構造や物性に影響される。
論文情報
掲載誌:Communications Materialsタイトル:Decoupling between macroscopic densification and molecular structural evolution across gelation in cross-linked polymer networks
著者名:Atsuomi Shundo, Aoi Kontani, Atsushi Tokunaga, Tsuyoshi Miyashita, Satoru Yamamoto, and Keiji Tanaka
DOI:10.1038/s43246-026-01353-0
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