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理化学研究所 研究Discovery Saga
2026年9月17日

マルチバンチ構造のX線自由電子レーザー光の発生に成功

-新しい利用実験やパルス繰り返しの増強への応用に期待-

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
X線共振器を用いた固体レーザー光の発生など、一度に複数のXFEL光バンチを照射することが求められる利用実験や、XFELビームライン当たりのパルス繰り返しを増強することにも貢献すると期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学環境学数物系科学総合理工工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
プロファイル/空間分布/X線自由電子レーザー/パルス/ヒッグス/ヒッグス粒子/高エネルギー/仕事関数/自由電子レーザー/精密測定/陽子/陽電子/陽電子ビーム/SPring-8/ノイズ/加速器/広帯域/高周波/放射光/CCD/CCDカメラ/スペクトル/パルサー/ライダー/磁場/太陽/粒子加速/エネルギーシステム/融点/可視光/共振器/光スイッチ/光スイッチング/超短パルス/社会基盤/単結晶/フェムト秒/マイクロ/マイクロ波/レーザー/周波数/新エネルギー/電子ビーム/電子顕微鏡/電磁波/半導体/ホウ素/エイズ/スリット/ナノテクノロジー/がん治療/難病

2026年9月16日
理化学研究所

概要

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター 先進電子源開発チームの渡川 和晃 チームリーダーらの研究チームは、X線自由電子レーザー(XFEL)[1]施設SACLA[2]において、マルチバンチ構造[3]の電子ビームを発生させ、それを加速させてマルチバンチ構造のXFEL光を発生させることに初めて成功しました。
本研究成果は、X線共振器を用いた固体レーザー光の発生など、一度に複数のXFEL光バンチ[3]を照射することが求められる利用実験や、XFELビームライン当たりのパルス繰り返しを増強することにも貢献すると期待されます。
今回、研究チームは、電子銃で発生させた電子ビームを任意の時間構造に加工する装置(ビームチョッパー装置)を開発しました。まず、電子源開発用の試験施設においてマルチバンチ構造の電子ビームを発生させ、バンチごとのビーム品質の測定を行いました。時間幅が1ナノ秒(10億分の1秒)のバンチ内で一定の安定したビーム特性が二つのバンチで達成できていることを確認しました。次に、このビームチョッパー装置をSACLAに実装し、8.4ナノ秒間隔で二つのバンチを加速してXFEL光を発生するアンジュレータ装置に入射し、1バンチ当たりのパルスエネルギーが0.5ミリジュール(mJ)、合計で1mJのマルチバンチXFEL光を発生させることに成功しました。
本研究は、科学雑誌『Physical Review Accelerators and Beams』オンライン版(9月9日付)に掲載されました。

背景

電子や陽子などの粒子を電磁場を使って光速度近くまで加速させる粒子加速器は、基礎科学に限らず、がん治療や半導体製造など医療や産業にとっても欠かすことのできない装置であり、社会基盤として重要な役割を担っています。粒子加速器では、ビームは「バンチ」と呼ばれる固まりの構造となって加速されます。バンチの個数や各バンチ内に含まれる粒子数を制御することで、さまざまな時間構造をもつビームを得ることができます。
X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAは、太陽の100億倍の明るさのSPring-8光の、さらに10億倍という非常に明るい「X線自由電子レーザー」を発生させて、それを使って物質の極めて速い動きや変化の仕組みを原子レベルで解明する世界最高性能の電子加速器です。SACLAは、がんやエイズなどの難病に対する特効薬の開発や、新エネルギーシステムの研究など、ライフサイエンスやナノテクノロジーの分野に革新をもたらすものとして、世界の研究者や産業界から大きな期待が寄せられています。
SACLAの装置構成は、電子ビームを発生させる電子銃と、電子ビームを高エネルギーまで加速する加速器と、その加速された電子ビームからXFEL光を発生させるアンジュレータ装置とから成ります。SACLAの加速器は、電子陽電子衝突型線形加速器(リニアコライダー[4])のために高エネルギー加速器研究機構で開発されたCバンド加速器[5]技術を利用して建設されました。1秒間当たり60発のマイクロ波パルスを加速器で発生させ、そのマイクロ波パルスに1発の電子ビームバンチを入射させて加速し、シングルバンチ構造のXFEL光バンチを発生させています。リニアコライダー用加速器は、1発のマイクロ波パルスに複数の電子ビームバンチを入射させて加速できるように設計されています。このため、1発のマイクロ波で複数のXFEL光バンチを発生させることが原理的に可能ですが、一度に複数の電子ビームバンチを発生させる装置が開発されていなかったため、マルチバンチ構造のXFEL光の発生はこれまで実現されていませんでした。
そこで、研究チームは、SACLAにてマルチバンチ構造のXFEL光を発生させることに挑みました。

研究手法と成果

SACLAの電子銃では、単結晶六ホウ化セリウム[6]を1,500℃に加熱して電子ビームを発生させます。発生直後の電子ビームは非常に長いため、電子銃の直下に設置されたビームチョッパー装置で電子ビームを1ナノ秒の短い時間幅に切り出して電子ビームのバンチ構造を形成してから加速器に送り込みます。ビームチョッパー装置では、市販の高速パルス電源で発生した短パルスで電子ビームを切り出していましたが、パルスの出力が不安定になることによりXFEL光を安定に発生できなくなるという問題が発生することがありました。
この問題を解消するために、渡川チームリーダーらが開発した広帯域高周波アンプ[7]を利用した新しい高速パルス電源注)を適用することで、安定してXFEL光を発生させることに成功しました。この高速パルス電源は高周波アンプで小出力信号を増幅するタイプの電源であるため、原理的に任意の時間構造を持つパルスを発生させることが可能です。つまり、この高速パルス電源を用いれば、一度に複数の電子ビームバンチを発生させることにより、マルチバンチ構造のXFEL光を発生させることができます。
まず、研究チームは、電子源開発用の試験施設において、マルチバンチ構造の電子ビームを発生させることができるかを検証し、8個の電子ビームバンチの生成を確認しました(図1)。


図1 ビームチョッパーのパルス波形と電子ビームの波形
デモンストレーションのため、電子源開発用の試験施設において8個の電子ビームバンチを生成させた。電子ビーム波形は高速の電流モニターで測定した。
次に、時間幅が1ナノ秒の電子バンチの内部で時間的に一定の安定したビーム特性が、二つのバンチで達成できていることを、位相空間分布[8]で確認しました(図2)。マルチバンチ構造のXFEL光を発生させるために必須の課題の一つがクリアできたことを意味します。


図2 SACLA電子銃で発生した二つの電子ビームバンチの位相空間分布
電子源開発用の試験施設において、位相空間分布を調べ、二つの電子ビームバンチが同じ特性を持つことを確認した。横軸は電子ビームを細く切り出す上流スリットの位置、縦軸はその切り出した電子ビームの発散角度を測定する下流スリットの位置である。第1電子ビームバンチは先頭の電子ビームバンチ、第2電子ビームバンチは後続の2番目の電子ビームバンチである。縦軸に下流スリット位置を選んでプロットしているが、厳密には下流スリット位置を発散角度に変換した値を選んでプロットしている。赤色が電子の密度が高い領域、青色が電子の存在しない領域、黄色がその中間の領域を表す。
さらに、研究チームは新しいビームチョッパー装置をSACLAに装着しました。SACLAのCバンド加速器は、先頭の電子バンチが発生する電磁ノイズを吸収除去して後続の電子バンチに影響を与えないように設計されていました。このため、マルチバンチ構造(バンチ数2個、バンチ間隔8.4ナノ秒)の電子ビームの加速は問題なく実現できました。そして、これらをアンジュレータ装置に入射させて、ビームチョッパー装置のパルス波形を微調整することで、1バンチ当たり0.5mJ、合計で1mJのパルスエネルギーを持つ、二つの電子バンチを一つの高周波パルスで加速させたマルチバンチ構造のXFEL光を発生させることに成功しました(図3)。


図3 SACLAで発生したマルチバンチXFEL光
(上図)XFEL光の波長(光子エネルギー)で分解したスペクトル。第1XFEL光バンチは第1電子ビームバンチから発生したものであり、第2XFEL光バンチは第2電子ビームバンチから発生したものである。二つのXFEL光のバンチのスペクトルが分離しているのは、電子ビームバンチのエネルギーがわずかにずれていたためである。XFEL強度の単位は、任意の単位。
(下図)XFEL光の空間プロファイル。蛍光板にXFEL光を衝突させ、その場所で発光した可視光をCCDカメラで観測した。2個のXFEL光バンチが蛍光板の同じ位置に衝突したため、空間プロファイルは完全に重なって見えている。

注)2022年7月20日プレスリリース「広帯域高周波アンプを用いた高速パルサーの開発に成功」

今後の期待

今回、SACLAにおいて初めてマルチバンチ構造のXFEL光を発生させることに成功しました。今後、一度に複数のXFEL光バンチを照射することが求められる実験や多量のX線光子を必要とする実験に貢献すると期待されます。また、電子ビームバンチを超高速で複数のビームラインに振り分けることにより、各XFELビームラインで単位時間当たりのXFEL光のパルス数を増強することにも貢献すると期待されます。
開発した高速パルス電源の応用は、マルチバンチ構造の電子ビームの発生だけに限りません。線形加速器やリング加速器におけるビームバンチごとの軌道補正など、さまざまな応用が考えられます。また、光学レーザーの高速強度変調や偏光スイッチング(制御)など、他分野における技術的な貢献も期待されます。

補足説明

1.X線自由電子レーザー(XFEL)
X線領域におけるレーザーの一つ。真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的には波長の制限はない。数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の幅の超短パルスを出力する。XFELはX-ray Free Electron Laserの略。
2.SACLA
理研と高輝度光科学研究センター(JASRI)が共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。加速器の中で電子の固まりを正確な制御の下で一斉に振動させ、その電子の固まりからX線レーザーを発生させるX線発生装置。SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLA(サクラ)と命名された。1オングストローム(1Å、1Åは100億分の1メートル)以下というX線領域の波長のレーザー生成能力を持つ。
3.マルチバンチ構造、バンチ
固まりとなったミクロな粒子の集団をバンチと呼ぶ。そして、複数のバンチから成るビームの構造をマルチバンチ構造と呼ぶ。通常は一つの高周波パルスに一つの電子バンチ(シングルバンチ)を乗せて加速するが、今回は二つの電子バンチ(マルチバンチ)を一つの高周波パルスで加速してマルチバンチ構造のXFEL光を発生させた。
4.リニアコライダー
電子ビームと陽電子ビームを、対向する2台の線形加速器で加速して正面衝突させ、宇宙初期と同じ極めて高いエネルギーの状態を実験室で再現する装置。宇宙や物質の起源を探索することを目的としており、特に質量の起源であるヒッグス粒子の精密測定により新しいエネルギー領域の物理を探索することを目指している。
5.Cバンド加速器
リニアコライダーの実現を目的として、1990年代に高エネルギー加速器研究機構で開発された加速器。電子を加速するマイクロ波の周波数帯域が、従来加速器の2倍のCバンド帯(約5ギガヘルツ=約50億ヘルツ)である。現在では、SACLAをはじめ世界各地の線形加速器がCバンド加速器を使っており、線形加速器のスタンダードとなっている。
6.単結晶六ホウ化セリウム
セリウム原子とホウ素原子の割合が1:6の化合物。仕事関数(物質表面において、1個の電子を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギー)が2.4電子ボルト(1電子ボルトは電子1個を1ボルトの電圧で加速したときのエネルギー)と低く、融点も2,000℃を超える。高品質の電子ビームを発生することができるため、古くから電子顕微鏡用の電子放出源として用いられてきた。X線自由電子レーザーでは唯一SACLAで使用されている。
7.広帯域高周波アンプ
幅広い波長帯域にわたって高周波(電磁波)の出力を増幅する装置。増幅素子には一般的に半導体が用いられる。
8.位相空間分布
空間座標軸と速度座標軸から成る分布図。ビーム内の電子を位相空間にプロットしたときに広がった分布の面積をエミッタンスと呼ぶ。エミッタンスが小さいビームほど、平行性がよく、高密度のビームであるといえる。

研究チーム

理化学研究所 放射光科学研究センター
先進電子源開発チーム
チームリーダー 渡川 和晃(トガワ・カズアキ)
研究員(研究当時)ビタリー・ゴリャシュコ(Vitaliy Goryashko)
(現 ウプサラ大学(スウェーデン)教授)
先進ビーム診断チーム
チームリーダー 前坂 比呂和(マエサカ・ヒロカズ)

原論文情報

Kazuaki Togawa, Hirokazu Maesaka, Vitaliy Goryashko, "Formation of nanosecond multibunch structure in thermionic electron beams and generation of multibunch x-ray free-electron laser pulses",Physical Review Accelerators and Beams,10.1103/3x73-lc4f

発表者

理化学研究所
放射光科学研究センター先進電子源開発チーム
チームリーダー 渡川 和晃(トガワ・カズアキ)

報道担当

理化学研究所 広報部 報道担当
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