院外心停止では救急隊到着前のAEDによる電気ショックが重要 全国約3,800人の解析で明らかに
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 市民によるAED電気ショックを促進する環境づくりや取り組みを進める上での重要な知見となることに期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
2026-9-9●生命科学・医学系医学系研究科教授川崎 良発表のポイント
救急隊到着前に自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)による電気ショックを受けた患者では、1か月後に脳の機能が良好な状態で生存している割合が54.0%で、電気ショックを受けなかった患者の39.6%より高いことが明らかに。時間依存性傾向スコア逐次マッチング法という統計解析手法を用いて、電気ショックのタイミングを考慮した上で、効果をより正確に評価。
救急隊の到着を待つことなく、居合わせた市民が速やかにAEDによる電気ショックを実施することの重要性を示し、市民によるAED電気ショックを促進する環境づくりや取り組みを進める上での重要な知見となることに期待。
発表概要
大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学の志田瑶さん(博士後期課程)、川崎良教授、平山敦士助教、国立循環器病研究センター情報利用促進部の北村哲久部長らの研究グループは、救急隊到着前にAEDによる電気ショックを受けた患者では、1か月後に脳の機能が良好な状態で生存している割合が、電気ショックを受けなかった患者の割合より高いことを明らかにしました。本研究では、総務省消防庁の全国院外心停止登録データを用いて、2022年から2023年に日本全国で発生した公共の場で市民により目撃された心室細動の院外心停止患者を対象に、救急隊到着前の市民によるAED電気ショックと、心停止1か月後に脳の機能が良好な状態で生存していること(以下、「良好な神経学的転帰」)との関連を検討しました。
これまで、電気ショックまでの時間を考慮した評価は十分でなく、単純な比較ではAEDによる電気ショックの効果を正しく評価できない可能性がありました。そこで、時間依存性傾向スコア逐次マッチング法という統計解析手法を用い、AEDによる電気ショックのタイミングを考慮して解析することで、効果をこれまでより正確に評価しました。その結果、救急隊到着前にAEDによる電気ショックを受けた患者は、実施までの時間にかかわらず、おおむね良好な神経学的転帰が認められることが分かりました。
本研究は、救急隊の到着を待つのではなく、居合わせた市民が速やかにAEDによる電気ショックを行うことの重要性を示すとともに、市民によるAEDの使用を促進するための教育や環境整備の必要性を示す成果です。
本研究成果は、米国心臓協会の学術雑誌「Journal of the American Heart Association」に、2026年7月31日に掲載されました。

図1. 研究概要図(Chat GPTにて作成)
研究の背景
院外心停止は、分単位で時間の経過とともに救命できる可能性が低下します。特に、心室細動による心停止ではAEDによる早期の電気ショックが救命に重要であることが知られています。日本では2004年から市民によるAEDの使用が認められ、現在では約69万台のAEDが公共施設などに設置されています。しかし、公共の場で心停止が発生した際に、居合わせた市民によるAED電気ショックが実施される割合は依然として高くありません。これまで市民によるAED電気ショックの有効性は報告されてきましたが、電気ショックまでの時間を考慮した評価は十分ではありませんでした。また、救急隊到着までの時間が長い患者ほど市民によるAED電気ショックを受ける機会が増える一方、長時間の心肺蘇生が必要な患者は予後が悪くなりやすいため、単純な比較ではAEDによる電気ショックの効果を正しく評価できない可能性があります。
そこで本研究では、電気ショックまでの時間による比較の偏りをできるだけ少なくするため、電気ショックを行ったタイミングを考慮できる時間依存性傾向スコア逐次マッチング法を用いて、市民によるAED電気ショックと良好な神経学転帰との関連を検討しました。
研究の内容
本研究では、2022年から2023年に日本全国で発生した院外心停止283,303人のうち、公共の場で市民により目撃され、AEDによる電気ショックの対象となる心室細動の患者3,838人を解析しました。このうち、救急隊到着前に市民によるAED電気ショックを受けた患者は1,697人(44.2%)であり、半数以上では実施されていませんでした(図1上段左)。時間依存性傾向スコア逐次マッチング法を用いて解析した結果、1,664組の患者を比較することができました。心停止発生1か月後に良好な神経学的転帰を伴って生存していた割合は、AED電気ショック群で54.0%、非AED電気ショック群で39.6%であり、市民によるAED電気ショックは良好な神経学的転帰と有意に関連していました(調整後リスク比1.46)(図1上段右)。
さらに、心停止の目撃からAEDによる電気ショックまでの時間を5分ごとに分けて解析したところ、AEDによる電気ショックまでの時間にかかわらず、おおむねAED電気ショック群で良好な神経学的転帰が認められました(図1下段)。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、公共の場で市民により目撃された心室細動の院外心停止患者を対象に、救急隊の到着を待つのではなく、居合わせた市民が速やかにAEDによる電気ショックを行うことの重要性を、全国規模のデータを用いて示しました。一方で、本研究では対象患者の半数以上が救急隊到着前にAEDによる電気ショックを受けていませんでした。AEDを設置するだけではなく、必要な場面で実際にAEDが使用される環境を整えることが重要です。そのためには、AEDの場所を把握しやすくする仕組み、近くにいる市民や登録救助者に通知するシステム、AEDを使用することへの心理的障壁を下げる教育・啓発を進めることが求められます。
本研究成果は、市民によるAED電気ショックを促進する上での重要な知見となることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年7月31日に米国心臓協会の学術雑誌「Journal of the American Heart Association」(オンライン)に掲載されました。タイトル: “The Timing of Public-Access Defibrillation for Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest: A Nationwide Cohort Study Using Time-Dependent Propensity Score Sequential Matching Approach”
著者名: Haruka Shida, Yoshimitsu Shimomura, Atsushi Hirayama, Ryo Kawasaki, Sho Komukai, Aiko Tanaka, Tadaharu Shiozumi, Tasuku Matsuyama, Aya Fukuzawa, Kosuke Kiyohara, and Tetsuhisa Kitamura
DOI:https://doi.org/10.1161/jaha.126.051586
参考URL
大阪大学 大学院医学系研究科 公衆衛生学https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/pbhel/
川崎 良教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/4c89cb09922bae2c.html
平山 敦士助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/3a091bd8f0b1f653.html
大阪大学 研究