日本の沿岸漁業、効率性改善の最大の壁は「燃料費」
全国の漁業経営体の分析から、海域ごとに異なる非効率性要因を明らかに 経済学研究院 加河茂美 主幹教授
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
2026.09.09
研究成果Humanities & Social SciencesEnvironment & Sustainability
発表のポイント
日本の沿岸漁業を対象に、燃料、労働、漁船規模、操業日数などの投入がどの程度効率的に使われているかを分析。燃料費に関する非効率性が最も大きく、燃料利用の改善が沿岸漁業の持続可能性向上に重要であることを明らかに。
地域や漁業種類によって非効率性の要因が異なることを示し、一律の政策ではなく、地域特性に応じた漁業政策の必要性を提案。
発表概要
日本の漁業は、生産量の減少、漁業経営体数の減少、高齢化、後継者不足などの構造的課題に直面しています。こうした状況のもと、限られた労働力や漁船、燃料などの投入を効率的に活用しながら、漁業の持続可能性を高めることが重要な課題となっています。これまでの漁業効率性に関する研究では、多くの漁業において投入が非効率に利用されていることが示されてきました。しかし、どの投入が特に非効率なのかは十分に明らかにされていませんでした。加えて、既存研究の多くは漁業全体の効率性や特定地域の分析に焦点を当てており、漁業種類と地域差を同時に考慮しながら非効率性の要因を分解した研究は限られていました。
こうした背景のもと、九州大学大学院経済学府の伊藤久史大学院生、大学院経済学研究院の加河茂美主幹教授、中石知晃准教授、福岡大学の下津浦大賀講師から成る研究グループは、日本の沿岸漁業経営体を対象に、投入利用の非効率性を定量的に分析したことに加え、漁業種類別・地域別に効率性を評価し、地域ごとの操業条件の違いや、経営上の改善余地に由来する非効率性を分離して把握しました。
分析の結果、全ての漁業種類(能動型、受動型、釣り・はえ縄型漁業)で、燃料費に関する非効率性が最も大きく、燃料利用の効率化が、沿岸漁業の効率性改善に向けた重要課題であることが明らかになりました。さらに能動型漁業では、太平洋側北部・日本海側南部・瀬戸内海などで海域間の環境差が確認され、太平洋側南部では同一地域内の経営・管理面の差が主な非効率性要因でした。こうした要因は漁業種類によっても異なることから、燃料効率の改善に加え、海域と漁業種類ごとの課題に応じた政策設計が必要であることが示されました。本研究は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2136)および九州大学エネルギー研究教育機構FCVI推進事業推進モジュール経費の支援を受けて実施されました。本研究成果は、2026年7月31日(金)にSocio-Economic Planning Sciences (2025年インパクトファクター:5.2)に公開されました。
本研究グループからひとこと

漁業は日本において衰退が著しい産業の一つです。本研究の結果が、今後の漁業政策や産業の持続可能性における議論に役立つことを期待しています。
参考図

図1. 能動型漁業における各投入の非効率性に関する箱ひげ図

図2. 能動型漁業における経営非効率性と環境非効率性に関するバブル図
図表解説
図1は、能動型漁業に属する経営体の各投入の非効率性スコアおよびその平均値を示しています。効率性指標の値が1に近いほど運用が最も非効率的であることを意味し、値が小さいほど相対的に効率性が高いことを示唆 します。図1から、他投入に比べて最も平均非効率性が高い投入は、燃料費(0.67)であり、漁船総トン数(0.46)、従業員数(0.42)、出漁日数(0.35)がこれに続きます。ここで、最も大きな平均非効率性スコア(燃料費)と最も小さな平均非効率性スコア(出漁日数)を比べると、約1.8倍の差があることが分かりました。このような結果は受動型漁業、釣り・はえ縄型漁業においても確認することができ、燃料費に関する非効率性がすべての漁業種類において最も高い傾向が確認されました。
図2は、能動型漁業における経営体ごとの全体非効率性と、その内訳である経営非効率性と環境非効率性の関係を示したバブル図です。円の大きさは全体非効率性の程度を表し、円が大きいほど政策介入の優先度が高いことを意味します。また、図中にある45度線は全体非効率性の主要因が経営非効率性か環境非効率性のどちらにあるかを示しており、45度線より右側(左側)にある経営体は、環境非効率性(経営非効率性)の影響が大きいことを表します。総じて、多くの地域で経営非効率性を主因とする経営体が一定数存在しており、それらに対する経営改善を優先的に進めることで、非効率性の是正効果が大きいことを示唆しています。一方で、図2における45度線の右側で、横軸方向(環境)に偏している経営体が日本海側南部と瀬戸内海地域において複数確認することができます。これらの経営体は、環境条件や構造的制約に強く影響されており、縦軸方向(経営)に偏する地域や経営体とは異なる政策が求められます。
論文情報
掲載誌:Socio-Economic Planning Sciencesタイトル:Efficiency evaluation of fishing entities and sustainable fishery policies: Evidence from Japan
著者名:Hisashi Ito, Taiga Shimotsuura, Tomoaki Nakaishi, Shigemi Kagawa
DOI:10.1016/j.seps.2026.102576
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