ユークロマチンは凝縮した塊をつくり、コヒーシンは塊が“混ざる”のを防ぐ
生体防御医学研究所 小林芳明助教/大川恭行主幹教授/落合博教授
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
人工知能(AI)/ゲノムDNA/生細胞/タンパク質複合体/回折限界/ヒストン/可視光/ナノメートル/超解像/ヌクレオソーム/コヒーシン/ゲノム機能/ヘテロクロマチン/蛍光顕微鏡法/クロマチン/生体防御/蛍光顕微鏡/蛍光標識/細胞核/ゲノム/遺伝学/遺伝子
2026.09.08
研究成果Life & Health
発表概要
ヒトの細胞核に収納されたゲノムDNAは、大きく二つの領域に分けられます。一つは、遺伝子が多く、読み出し(転写)が活発な「ユークロマチン」です。もう一つは、遺伝子が少なく、転写が抑えられている「ヘテロクロマチン」です。これまでユークロマチンは、DNAを読み出す分子が近づきやすい「オープンな構造」として、教科書で説明されてきました。しかし、生きた細胞の中でユークロマチンが実際にどのような形をとり、どのように動いているのかは、分かっていませんでした。このたび、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の島添將誠 大学院生(総合研究大学院大学、日本学術振興会特別研究員DC1)、飯田史織 特任研究員(現 独マックス・プランク分子生物医学研究所)、南克彦 特任研究員(現 米ハーバード大学)、東光一 助教 (現 バイオ生成AI研究開発センター准教授)、黒川顕 教授、前島一博 教授らは、九州大学の落合博 教授らを含む国際共同研究チームと共同で、ヒト生細胞内のユークロマチンをナノメートルスケールで解析しました。
研究チームは、ユークロマチンに多いヒストン(1)の一種H3.3を標識し、1個1個のヌクレオソームの動きを追跡する1分子ヌクレオソームイメージング(2)と、超解像蛍光顕微鏡法(3)を組み合わせました。これにより、ユークロマチンの構造と物理的性質を、生きた細胞の中で詳しく調べることができました。その結果、ユークロマチンは単に開いた構造ではなく、数百ナノメートルほどの大きさで、凝縮しながらもやわらかく流動性をもつ塊(クロマチンドメイン)を形成していることが分かりました。さらに、DNAをループ状に束ねるコヒーシン(4)を急速に分解すると、ドメインは凝縮したままである一方、ドメインの流動性が増し、近接するドメイン同士が混ざりやすくなりました。また、近接した遺伝子同士の転写が同時に起こる頻度も増加しました。
これらの結果から、コヒーシンは凝縮したユークロマチンドメイン同士が「混ざる」のを防ぎ、近くにある遺伝子がそれぞれ適切に転写されるようにしていると考えられます。本研究は、クロマチンは単に「開いているか、閉じているか」だけで理解できるものではなく、活発にはたらくクロマチンも凝縮したドメインとして存在し、適度に分かれていることがゲノム機能に重要であることを示しました。

図:ユークロマチンはオープンな構造であり、コヒーシンがDNAを束ねてループを形成すると考えられてきた(左)。実際には細胞の中ではユークロマチンは流動性を保ちつつも、凝縮した塊(ドメイン)を作っていた。また、コヒーシンはクロマチンドメインを固くし、混ざらないようにしていた(右)。
用語解説
(1) ヒストンヌクレオソームの構成タンパク質であり、DNAの糸巻きの役割をする。H2A、H2B、 H3、 H4の4種類はコアヒストンと呼ばれている。H3.3はH3の一種であり、転写が活発な領域に存在する。
(2) 1分子ヌクレオソームイメージング
ヌクレオソームをまばらに蛍光標識し、生細胞内で一つ一つの位置と動きを追跡して、クロマチンの局所的な流動性や拘束を測る方法。
(3) 超解像蛍光顕微鏡
通常の光(可視光)を用いた顕微鏡で観察する場合は、200ナノメートル程度の大きさのモノをとらえるのが限界である(光の回折限界)。しかし、超解像蛍光顕微鏡はこの限界を超えて(超解像)、より小さな構造まで観察することができる。本研究では3D-SIMとSTORMでユークロマチンドメインを可視化した。
(4) コヒーシン
複数のタンパク質からなるリング状のタンパク質複合体。リング内にDNAをくわえることで姉妹染色分体をつなぐほか、DNAを束ねてループを形成してゲノムの三次元構造を作る。
論文情報
本研究成果は、国際科学雑誌「Nature Genetics」に掲載されました。論文タイトル:
Cohesin prevents local mixing of condensed euchromatic domains in living human cells
(コヒーシンはヒト生細胞において凝縮したユークロマチンドメインの局所的な混合を防ぐ)
著者:
Masa A. Shimazoe†, Shiori Iida†, Katsuhiko Minami†, Koichi Higashi†, Sachiko Tamura, Yoshiaki Kobayashi, Shin Fujishiro, Le Xiong, Kako Nakazato, S. S. Ashwin, Tomoko Nishiyama, Yu Nagata, Masato T. Kanemaki, Akane Kawaguchi, Yasuyuki Ohkawa, Lothar Schermelleh, Atsushi Toyoda, Liangqi Xie, Ken Kurokawa, Hiroshi Ochiai, Masaki Sasai, and Kazuhiro Maeshima*
†共同筆頭著者 *責任著者
DOI:10.1038/s41588-026-02736-2
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