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自然科学研究機構 研究Discovery Saga
2026年9月8日

クライオ電子顕微鏡データの解像度限界を突破する新しい画像解析手法を開発

―既存データから高分解能情報を引き出す「PASR法」―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
構造生物学や創薬研究におけるcryo-EM解析の効率化と高精度化に貢献すると期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
リアルタイム処理/視覚化/デジタル画像/ノイズ/高周波/ナノメートル/結晶化/超解像/電子顕微鏡/電子顕微鏡法/分解能/クライオ電子顕微鏡/高分解能/AAV/アデノ随伴ウイルス/不均一性/アミノ酸/構造生物学/生体分子/創薬/膜タンパク質/立体構造/ウイルス/生理学
2026年09月08日
 

発表概要

自然科学研究機構 生命創成探究センター/生理学研究所のレイモンド・バートンスミス 特任助教、村田 和義特任教授の研究グループは、クライオ電子顕微鏡(cryo-electron microscopy: cryo-EM)で取得したデータから、従来の物理的解像度限界を超える高分解能情報を復元できる新しい画像解析技術「Post-Acquisition Super Resolution(PASR)」を開発しました。PASR法は、撮影済みのムービーデータに対して計算機上で前処理を行い、フレーム間に存在する微小な粒子移動情報を活用することで、高周波情報を再構成する技術です。本手法により、追加の顕微鏡測定を行うことなく、既存データからより高精細な構造情報を引き出すことが可能になりました。研究チームは、タンパク質、ウイルス、巨大ウイルスなど複数のデータセットにPASR法を適用し、物理的ナイキスト限界※1を超える分解能向上を確認しました。本成果は、構造生物学や創薬研究におけるcryo-EM解析の効率化と高精度化に貢献すると期待されます。
本研究成果は、2026年9月2日に、国際科学雑誌「IUCrJ」にオンライン公開されました。
 

発表のポイント

    クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)データから、物理的解像度限界を超える情報を復元する新技術「PASR法」を開発
    追加測定や特殊撮影を必要とせず、既存データや標準的解析ソフトウェアに適用可能
    巨大ウイルスや不均一な巨大分子複合体など、解析が難しい試料研究への応用に期待

研究の詳しい内容

1. 背景

クライオ電子顕微鏡法※2は、タンパク質や巨大分子複合体、ウイルス粒子などの立体構造を原子レベルで解析できる技術として急速に発展しています。特に単粒子解析法(SPA)※3の進歩によって、結晶化が困難な膜タンパク質や巨大分子複合体の解析が可能となり、生命科学研究や創薬研究において重要な役割を果たしています。
一方で、cryo-EMには「ナイキスト限界(Nyquist limit)」※1と呼ばれる物理的な解像度限界があります。より高い分解能を得るためには高倍率でデータを再取得する必要がありますが、高倍率撮影では1枚の画像に含まれる粒子数が減少するため、測定時間やデータ保存容量が大幅に増加するという課題がありました。
 

本研究の成果

今回研究グループが開発したPASR法では、取得済みムービーデータの各画素を計算機上で細分化し、動き(ブレ)補正時にフレーム間の微小な位置ずれ情報を利用することで、従来取得できなかった高周波情報を復元します(図1)。



図1. PASR コンセプトの概略図: 動き(ブレ)補正の前にピクセルを再分割することにより、キャプチャされたフレーム内のより微妙な動きが補正され、限られた状況で、取得中に課される物理的制限を克服して、より高解像度の処理が可能になります。
 
研究チームは、アポフェリチン、ジャックビーンウレアーゼ、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ノダウイルス、巨大ウイルスのメルボルンウイルスなどのデータセットを解析し、通常のカウンティングモード※4データからでも物理的ナイキスト限界を超える分解能向上を確認しました(図2)。



図2. PASR処理前(左)と処理後(右)のメルボルンウイルスキャプシド(殻)の画像。PASR処理前の解像度は5 Å※5程度で、キャプシドを構成するタンパク質アミノ酸の詳細な構造を視覚化することは困難である。PASR処理後の解像度は約3.5 Åで、その詳細な配置が識別可能になる。スケールバーは5 nm。マップは図右下に示した解像度に応じて部分的に色分けされている。
 
 また、PASR法はRELIONやCryoSPARCなど、現在広く利用されている標準的なcryo-EM解析ソフトウェアで利用可能であり、特殊な解析環境を必要としません。さらに、撮影時超解像データと組み合わせることで、従来の超解像ナイキスト限界を超える再構成にも成功しました。
 

3.今後の展開

PASR法は、巨大ウイルスや柔軟性・不均一性の高い巨大分子複合体など、粒子数確保が重要となる試料解析への応用が期待されます。低倍率で多数の粒子を撮影しながら高分解能解析を可能にできるため、データ取得効率向上や顕微鏡使用時間短縮、データ保存容量削減への貢献が期待されます。
研究グループは今後、PASR法をcryo-EM解析パイプラインへ統合し、リアルタイム処理への応用を目指します。
 

用語説明

※1:ナイキスト限界(Nyquist limit)
デジタル画像で記録できる細かさの理論上の限界。カメラの画素サイズによって決まり、それより細かな構造情報は正確に記録できない。クライオ電子顕微鏡では、達成可能な分解能の目安として用いられる。
※2:クライオ電子顕微鏡法
クライオ電子顕微鏡法は、タンパク質やウイルスなどの生体分子を急速凍結して観察する最先端の顕微鏡技術です。生体分子の形や機能を原子レベルで可視化できるため、生命現象の理解や新薬開発に大きく貢献しています。
※3:単粒子解析法
単粒子解析法は、タンパク質やウイルスをさまざまな方向から撮影した多数の画像を組み合わせて、立体的な形を再現する技術です。生命のしくみの解明や病気の治療法・新薬の開発に活用されています。
※4:カウンティングモード
カウンティングモードは、電子顕微鏡の高性能カメラが飛来した電子を1個ずつ検出して数える撮影方式です。従来よりもノイズの少ない鮮明な画像が得られるため、タンパク質やウイルスなどの微細な構造を高精度に解析することができます。
※5:Å(オングストローム)
Å(オングストローム)は、原子や分子の大きさを表すために用いられる長さの単位です。1 Åは100億分の1メートル(0.1ナノメートル)に相当します。タンパク質やDNAの構造解析では、どれだけ細かく観察できるかを示す分解能の単位として広く使われています。
 

研究助成等について

本研究は、JSPS科学研究費補助金(ABiS; JP22H04926)、AMED BINDS(JP22ama121005)、生理学研究所データサイエンス研究支援(2022-2024)の支援を受けて行われました。
 

論文情報

雑誌名:IUCrJ
論文名:Post-acquisition super resolution for cryo-electron microscopy
著者:Raymond N. Burton-Smith, Kazuyoshi Murata
論文公開日:2026年9月2日
掲載URL:https://journals.iucr.org/m/issues/2026/05/00/rq5016/index.html
DOI:1107/S2052252526005348

 

著者情報

Raymond N. Burton-Smith、村田 和義(生命創成探究センター/生理学研究所)
 

問い合わせ先

研究内容に関するお問い合わせ

自然科学研究機構 生命創成探究センター/生理学研究所
特任教授 村田 和義
E-mail:kazum_at_nips.ac.jp
 

広報に関するお問い合わせ

自然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)研究力強化戦略室
E-mail:press_at_excells.orion.ac.jp
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
E-mail:pub-adm_at_nips.ac.jp
※_at_を@に変換してください。
 

プレスリリース

クライオ電子顕微鏡データの解像度限界を突破する新しい画像解析手法を開発
― 既存データから高分解能情報を引き出す「PASR法」―
EurekAlert!
EurekAlert!(日本語)