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埼玉大学 研究Discovery Saga
2026年8月3日

熱電性能は熱電材料だけでは決まらない

―電極や熱の流れまで含めた新しい設計理論を開発―(大学院理工学研究科 長谷川靖洋 准教授)

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
材料・電極・測定系を一体として最適化する新しい設計指針となり、高性能な熱電デバイスや高精度な性能評価への応用が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学数物系科学工学医歯薬学
【Sagaキーワード】
最適化/スケーリング則/スケーリング/温度分布/省エネ/評価手法/電気抵抗/熱電材料/熱電変換/インピーダンス/自動車/省エネルギー/性能評価/動特性/熱伝導/熱伝導率/SPECT

2026/8/3
プレスリリース全文はこちらからご覧ください。

発表のポイント

•    熱電材料だけでなく、電極や熱の逃げ方(熱リーク)まで含めて熱電特性を統一的に記述できる新しい理論的枠組みを開発しました。
•    熱と電気が時間とともにどのように絡み合うのかを明らかにし、時間応答に共通して成り立つ普遍的な法則(スケーリング則)を発見しました。
•    材料・電極・測定系を一体として最適化する新しい設計指針となり、高性能な熱電デバイスや高精度な性能評価への応用が期待されます。
•    本研究成果は Journal of Applied Physics に掲載され、編集部が特に優れた論文として選ぶ Featured Article に選出されました。



図1 時間領域インピーダンス分光法(TDIS)による評価手法の概念図。熱電デバイスは熱電材料のみならず、電極、バインダー、絶縁プレートなど様々な部材で構成されている。本研究は、熱と電気の連成に着目したTDISによる立ち上がり時間が熱電デバイスの様々な部材に依存することを明らかにし、その挙動から新しい設計理論を提案した。



図2 本研究ではTDISによる立ち上がり時間の関数を理論的に解析し、電極や熱の逃げなどが存在する場合の熱電デバイスの性能や設計方針を解析する方法を提案した。

発表概要

熱電材料は、これまで利用されずに捨てられていた熱を電気へ直接変換できることから、省エネルギー技術として期待されています。しかし、熱電材料の性能は材料そのものだけで決まるわけではありません。電極の材質や構造、周囲への熱の逃げ方(熱リーク)も性能に大きな影響を与えます。
これまでの研究では、温度や電気的な状態が十分に安定した後に求められる無次元性能指数(zT)の評価が中心であり、熱電現象が時間とともに形成される過程や、材料・電極・熱リークがそれぞれどのような役割を果たしているのかは十分に理解されていませんでした。熱電材料には、温度差から電気を生み出す働きだけでなく、逆に電流を流すことで熱を一方から他方へ運ぶ働き(ペルチエ効果)もあります。本研究では、この性質を利用する時間領域インピーダンス分光法(TDIS)に着目しました。TDISでは、熱電材料に一定の電流を急に流し始め、その後、電気抵抗が安定するまでの時間変化を測定します。
埼玉大学大学院理工学研究科 長谷川靖洋准教授の研究グループは、本研究において、時間領域インピーダンス分光法(TDIS)の時間応答(図1)を理論的に解析し、熱電材料・電極・熱リークを統一的に扱える新しい理論的枠組みを構築しました。さらに、時間応答が共通の法則(スケーリング則)に従うことを明らかにし、熱電システム全体を理解・設計するための理論的基盤を示しました。
この成果は、高性能な熱電材料の探索だけでなく、電極構造や熱設計を含めた熱電デバイス全体の最適化や、高精度な性能評価への応用が期待されます。本論文は2026年7月30日に Journal of Applied Physics に掲載され、編集部が特に優れた論文として選ぶFeatured Article に選出されました。

論文情報

掲載誌 Journal of Applied Physics
論文タイトル Scaling dynamics of electrothermal coupling in thermoelectric materials probed by time-domain impedance spectroscopy
著者 Yasuhiro Hasegawa
DOI 10.1063/5.0340443
URL https://doi.org/10.1063/5.0340443

用語解説

熱電材料(Thermoelectric materials):熱を電気に、また電気を熱に直接変換できる材料です。工場や自動車などから排出される未利用熱を電力として回収できることから、省エネルギー技術への応用が期待されています。

電気と熱の相互作用:熱電材料では、電流を流すと電流とともにペルチェ熱が輸送され、材料内の温度分布が変化します。この温度変化は電気的な応答にも影響を与えるため、電気と熱が互いに影響し合いながら時間とともに変化します。

時間領域インピーダンス分光法(TDIS:Time-Domain Impedance Spectroscopy):熱電材料にステップ状の電流を印加し、そのときの電気抵抗の時間変化を解析する測定・解析手法です。本研究では、電流とともに輸送されるペルチェ熱を時間的に精密に制御できることを利用して、電気・熱連成の動特性を理論的に解析しました。

無次元性能指数(zT):熱電材料の性能を表す代表的な指標です。ゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率、絶対温度から決まり、一般に値が大きいほど熱電変換性能が高いとされます。
長谷川 靖洋|埼玉大学研究者総覧