気体に反応して色と光がスイッチする相分離材料を開発
液体がしみ出す相分離を分子レベルの相互作用で制御
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | ガス応答型センサーや記録・表示材料への応用が期待されるほか、さらなる刺激応答材料の設計指針としても波及効果が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
2026-7-21●工学系蛋白質研究所教授栗栖 源嗣発表のポイント
分子レベルの相互作用を利用して、固体から液体がしみ出す「固-液相分離」を制御することに成功。特定のガスに応答して固-液相分離を起こし、色と室温りん光のスイッチを実現。
分子液体の包接に基づく、新しい刺激応答材料の設計指針として期待。
発表概要
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の谷 洋介 特任准教授らの研究グループ(研究開始当時:大阪大学大学院理学研究科)は、京都大学大学院工学研究科の和田 圭介 博士、生越 友樹 教授、神戸大学ライフ光学イノベーション研究センターの立川 貴士 教授、大阪大学蛋白質研究所の栗栖 源嗣 教授らとの共同研究で、特定の気体に応答して固体から液体がしみ出す「固-液相分離」を起こし、色や発光機能を劇的に変化させる、新しい分子材料を開発しました。複数の成分から成る材料は、その組み合わせを変えるだけでさまざまな機能を発揮し得るため魅力的です。一方、各成分の混ざり具合も機能に大きく影響しますが、それらが混ざるか、分離するかを外部刺激によって制御するのは容易ではありませんでした。
今回、研究グループは、液体の分子の一部分を環状分子で包みこむという分子レベルの相互作用を利用した超分子化学的アプローチで、固-液相分離や物質の光機能といった目に見える変化を制御することに成功しました。この変化は特定の気体にさらすことで可逆的に繰り返し起こせます。本成果は、多成分材料の新しい設計指針として重要であり、刺激応答材料やセンサーの開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年7月21日(日本時間)付で英国王立化学会の『Chemical Science』に掲載されました。
研究背景と内容
2種類以上の固体や液体を混ぜ合わせたとき、それらが分子レベルで混ざっているかどうかは、混合物の性質や機能に大きく影響します。そのため、この均一性や相分離を理解し制御することは、材料科学や超分子化学、生化学などさまざまな分野において重要なトピックです。特に、各成分の混合(均一化)と分離を制御できれば、材料の機能を顕著に変化させることができると期待されます。しかし、これまで多成分固体の相分離を外部刺激によって制御することは、難しい課題でした。今回、研究チームは分子液体の構造と性質に注目しました。分子液体の多くは、機能を発揮する部分骨格を液体化する(融点を下げる)ために、長いアルキル鎖をもっています。アルキル鎖はさまざまな折れ曲がり方ができるという立体構造の自由度をもち、これが液体化に重要だと考えられています。そこで、アルキル鎖を環状分子で包接すれば、その自由度が低下して固体化するのではないかと着想しました。
本研究ではこれを実証するため、谷特任准教授らのチームが開発したアルキル鎖をもつ分子液体(DMOS-BrTn)と、生越教授らのチームが開発したアルキル鎖を取り込む性質をもつ環状分子(ピラー[5]アレーン, P5A)を組み合わせ、ホスト-ゲスト錯体を合成しました(図1)。その結果、外部刺激で相状態と光物性を同時に制御できることを明らかにしました。
これら2成分は混合すると直ちにホスト-ゲスト錯体を形成し、液体が固体へと変化するとともに、色が黄色から赤色へと大きく変化しました。また、液体のDMOS-BrTnは黄色い室温りん光を示しますが、赤色の固体は発光しませんでした。栗栖教授らのチームがMicroEDによって結晶構造解析した結果、アルキル鎖が予想通りP5Aに包接され擬ロタキサン構造をとっていることが明らかになりました(図2)。さらに、分子間に電荷移動相互作用が生じていたことから、これが光物性変化の要因だと分かりました。
この固体をヘキサンのような直鎖アルカンの蒸気にさらすと、赤色が消失し、黄色い室温りん光が再び発現しました(図3)。立川教授らのチームは、この変化を顕微鏡観察によりリアルタイムで可視化し、液体がしみ出す様子を観察することに成功しました。詳細な検討の結果、アルカン分子がP5Aに包接された新しいホスト-ゲスト錯体が生じ、これによって分子液体が押し出されて相分離したことが分かりました。また、この応答は直鎖アルカンに対して選択的であり、加熱により元の状態へ可逆的に戻ることも確認されました。

図1. 本研究で用いた分子の構造とホスト-ゲスト錯体ができる概念図、および各分子材料に室内光と紫外光を当てたときの写真。

図2. 錯体の結晶構造。(左)青で示したアルキル鎖が環状分子を貫通した「擬ロタキサン構造」をしている。(右)結晶中では、電子不足な部分(中央)と電子豊富な部分(上下)が至近距離に位置していた。

図3. ホスト-ゲスト錯体の蒸気応答の模式図。赤い色が退色し、黄色い室温りん光が確認できる。顕微鏡で観察した拡大画像(中央上下)ではより明確であり、液体がしみ出している様子も分かる。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、分子レベルのホスト–ゲスト相互作用を利用して、マクロな相分離を外部刺激で制御できることを示した点で重要です。この成果は、ガス応答型センサーや記録・表示材料への応用が期待されるほか、さらなる刺激応答材料の設計指針としても波及効果が期待されます。論文情報
雑誌名: Chemical Science論文タイトル: Vapor-induced miscibility switching and optical response in a functional molecular liquid-pillar[5]arene system
著者: Yosuke Tani,*† Keisuke Wada,† Yuya Oshima, Takanori Nakane, Akihiro Kawamoto, Genji Kurisu,* Takashi Tachikawa,* Shunsuke Ohtani, Kenichi Kato, Tomoki Ogoshi* (谷洋介*†,和田圭介†,大島祐也,中根崇智,川本晃大,栗栖源嗣*,立川貴士*,大谷俊介,加藤研一,生越友樹*) †は共同第一著者、*は責任著者
DOI:10.1039/d6sc03713e
本研究は、JSPS科研費(JP25K01753, JP23K23427, JP23H03955, JP22H02159)の支援のもとで行われたものです。
大阪大学 研究