ゲノム情報を守るタンパク質の機能を解明
機能ドメインがなくても働くSquash
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 生殖細胞形成、ゲノム安定性維持機構、RNAによる遺伝子制御など幅広い分野への応用が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
人工知能(AI)/piRNA/タンパク質複合体/機能ドメイン/生殖/前駆体/転移因子/ゲノムの安定性/モデル生物/トランスポゾン/遺伝子破壊/機能性/哺乳類/変異体/配偶子形成/生殖細胞/ゲノム情報/機能解析/ゲノム安定性/遺伝子制御/光イメージング/小分子RNA/染色体/分子機能/卵巣/mRNA/分子機構/がん化/RNA/ショウジョウバエ/蛍光イメージング/細胞死/ゲノム/遺伝学/遺伝子/染色体異常
2026-7-21生命機能研究科教授甲斐 歳恵発表概要
京都大学大学院生命科学研究科 甲斐歳恵 教授(兼:大阪大学大学院生命機能研究科 教授)、 大阪大学大学院生命機能研究科 河口真一 助教(研究当時、現:京都大学生命科学研究科 特定講師)、徐鑫 同博士課程学生(研究当時)らの研究グループは、生殖細胞のゲノム情報を守るpiRNA経路の因子Squash(Squ)の機能を新たに解明しました。動物の生殖細胞では、PIWI-interacting RNA(piRNA)と呼ばれる小分子RNAが、ゲノムを不安定化させる転移因子(トランスポゾン)の活動を抑制しています。本研究では、ショウジョウバエ卵巣をモデルとして、これまで機能が不明であった非ドメインタンパク質Squの分子機能を解析しました。その結果、SquはRNAヘリカーゼSpindle-Eの補因子として働き、piRNA前駆体の処理を促進すること、piRNA経路の中心因子AGO3タンパク質の安定化にも必要であることを見出しました。即ち、SquはpiRNAを効率的に産生するピンポンサイクルを維持する重要な制御因子であることがわかりました。本成果は、機能ドメインを持たないタンパク質でも、特異的な相互作用を通じて機能を発揮することを示し、生殖細胞におけるゲノムの安定性を維持するメカニズムの理解に貢献します。本研究成果は、2026年7月20日午後2時(GMT)に米国の国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。

河口真一、ChatGPT5.5で作成したものを改変
研究の背景
生物のゲノムには、転移因子(トランスポゾン)と呼ばれる「動くDNA」が存在し、ヒトの場合には、ゲノムの約40%もの領域を占めています。これらは進化に貢献する一方で、過剰に活動すると遺伝子破壊や染色体異常の原因となり、細胞死やがん化などを引き起こします。特に、トランスポゾンの発現が活性化している生殖細胞の場合には、配偶子形成能力が低下し、不妊の原因となります。ヒトなどの哺乳類を含む動物の生殖細胞では、PIWI-interacting RNA(piRNA)と呼ばれる小分子RNAが、このようなトランスポゾンの活動を抑制する重要な防御システムとして働いています。動物の生殖細胞内には、タンパク質やRNAが局所的に凝集している構造体が多く存在します。piRNA研究のモデル生物として使われているショウジョウバエの場合には、核膜近傍にヌアージュと呼ばれる構造体があり、20種類以上のタンパク質が集積していることが知られています。それらが協働して、ヌアージュ内でpiRNAが産生されています。これまで、ヌアージュに局在するタンパク質の機能解析が進められてきましたが、その内のSquash(Squ)というタンパク質は、既知の機能性ドメインを持たない非ドメインタンパク質であり、どのような分子機能を担うのかは分かっていませんでした。
研究の内容
本研究では、ショウジョウバエの生殖細胞において、遺伝学、次世代シーケンス解析、蛍光イメージング、生化学解析を組み合わせて、Squの機能を解析しました。その結果、Squの欠損・欠失変異体では、piRNAと直接結合するAGO3タンパク質量が大幅に減少することを発見しました。一方でAGO3遺伝子のmRNA量は変化しておらず、SquがAGO3タンパク質の安定化に関与することが示されました。また、AI(AlphaFold)を用いたタンパク質複合体の予測、および生化学実験から、SquはRNAヘリカーゼSpindle-E(Spn-E)と直接相互作用することを確認しました。この相互作用を阻害すると、piRNA前駆体RNAの処理異常、トランスポゾン抑制の破綻、雌の生殖能力低下が生じました。即ち、SquはSpn-Eの働きを助ける因子であるが示されました。
さらに、SquはpiRNAを効率的に産生するための増幅メカニズムであるピンポンサイクルに寄与していることが明らかになりました。正常な生殖細胞では、AubとAGO3の間で行われる「ヘテロ型ピンポンサイクル」が働いています。しかし、Squが失われるとAGO3量が低下し、本来の増幅機構が維持できなくなる結果、Aub同士による代替的な「ホモ型ピンポンサイクル」が活性化されることを明らかにしました。これにより、Squが正常なpiRNA増幅を支える重要な制御因子であることが示されました。
波及効果・今後の展望
本研究は、生殖細胞がどのようにゲノムの安定性を維持しているのかという根本的な生命現象の理解を前進させる成果です。piRNA経路はショウジョウバエだけでなく、多くの動物に保存されているため、本研究で得られた知見は、生殖細胞形成、ゲノム安定性維持機構、RNAによる遺伝子制御など幅広い分野への応用が期待されます。一方で、SquがどのようにAgo3タンパク質を安定化しているのか、その詳細な分子機構は未解明です。また、Spn-EのRNA処理活性をどのように制御しているかについても、さらなる解析が必要です。今後はこれらの分子機構を解明し、生殖細胞におけるゲノム防御システム全体の理解につなげることを目指します。
論文情報
タイトル:Squash enables Spindle-E–dependent heterotypic piRNA amplification in theDrosophila ovary(日本語訳)Squashは、ショウジョウバエの卵巣においてSpindle-E依存性の異種piRNA増幅を可能にする
著者:Xin Xu, Taichiro Iki, Shinichi Kawaguchi, Toshie Kai
掲 載 誌:iScience
DOI:10.1016/j.isci.2026.116920
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業 (21H05275、25K022050)、大阪大学D3センター学際共創プロジェクト(Na22990007)、及び科学技術振興機構(JST)が実施する次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2138)の支援を受けて行われました。
大阪大学 研究