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九州大学 研究Discovery Saga
2026年7月21日

抗血栓性高分子のバリア機能の原因を解明

中性子散乱による中間水の状態の解析に成功 先導物質化学研究所 田中賢 教授

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
既製品を超える性能を持つ新たな抗血栓性材料を創製するための設計指針を与えるもので、今後の超高齢社会を支える医療技術の躍進のためにも極めて重要な研究成果
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域数物系科学化学工学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
陽子ビーム/高エネルギー/中性子散乱/陽子/J-PARC/ミュオン/加速器/相分離/中性子/ミクロ相分離/ミクロ相分離構造/高分子/高齢社会/持続可能/持続可能な開発/AFM/コーティング/ナノメートル/原子間力顕微鏡/原子力/高分子材料/血栓/超高齢社会/血液
2026.07.21 研究成果Life & HealthPhysics & ChemistryMaterialsEnvironment & Sustainability

発表のポイント

重症呼吸器系疾患の治療に重要なECMO※1の性能向上のためには血栓を作りにくい高分子材料の開発が必要
抗血栓性高分子PMEA※2において血栓形成を防ぐバリア層として働く水の存在を初めて実証
新たな抗血栓材料の創製に繋がる研究成果であり、今後の医療技術の発展に貢献

発表概要

 総合科学研究機構(CROSS)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)、近畿大学、東京理科大学、九州大学の共同研究グループは、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)※3の中性子散乱実験装置を用いて、実際に ECMOの回路内壁コーティングに使用されているポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)に水和する水の運動状態を調べ、高分子との相互作用により通常の水よりも10倍から100倍遅い水(中間水)が存在することを初めて明らかにしました。また、原子間力顕微鏡(AFM)実験の結果と比較することにより、PMEAのナノメートル(10-9 メートル)サイズのミクロ相分離構造に対応して、遅い水の運動が空間的に制限されていることが分かりました。この結果により、PMEAにおいて抗血栓性が発現するメカニズムが明らかになりました。
 この発見は、既製品を超える性能を持つ新たな抗血栓性材料を創製するための設計指針を与えるもので、今後の超高齢社会を支える医療技術の躍進のためにも極めて重要な研究成果であり、幅広い展開が期待されます。
 本研究成果は、日本時間2026年6月25日にアメリカ化学会の学術誌The Journal of Physical Chemistry Bに掲載されました。



中間水の運動の様子の模式図。狭い範囲に制限された「速い局所拡散」と、やや広い範囲の「遅い局所拡散」、そして制限空間の間を移り変わる「重心拡散」の3種類があり、それらが高分子と水のミクロ相分離構造と関係していることが分かった。

用語解説

※1:ECMO:体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation)
・・・通常の人工呼吸器管理では対応できない重症呼吸不全などに対して用いられる簡易式の人工心肺。ポンプを用いて脱血し、膜型人工肺でガス交換を行って患者に返血する仕組みになっている。ECMO稼働中は出血と血栓形成に注意する必要があり、専門的知識と技術を持つ医療チームによる集中管理が不可欠とされている。
※2:PMEA:ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)
・・・優れた血液適合性(抗血栓性)をもつバイオメディカル用高分子で、人工心肺などの体外循環回路のコーティング剤として用いられている。日本企業が開発したことで知られており、世界シェア第1位となっている。
※3:大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)
・・・J-PARCは、日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で茨城県東海村に建設し運用する研究施設。MLFでは陽子ビームを水銀標的及び炭素標的に当てて発生する中性子やミュオンを利用して、物質や生命現象の解明、新材料開発などの先端学術研究や産業利用研究が行われている。

論文情報

論文タイトル:Dynamics of Intermediate Water in Biocompatible Poly(2-methoxyethyl acrylate) Revealed by Quasi-Elastic Neutron Scattering
掲載誌:The Journal of Physical Chemistry B
著者:瀬戸 秀紀1,2、村上 大樹3、富永大輝1、塩本 昌平4、田中 賢5
著者所属:1総合科学研究機構中性子科学センター、2高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所、 3近畿大学産業理工学部、4東京理科大学先進工学部、5九州大学先導物質化学研究所
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.jpcb.6c02094
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