低線量放射線の発癌リスク評価のための遺伝子変異の解析
【研究分野】環境影響評価(含放射線生物学)
【研究キーワード】
マウス肝癌 / SDF-II / 放射線 / VL30 / 遺伝子発現 / RAD54 / 遺伝的不安定性 / 相同的組み替え / 放射線誘発肝癌 / 肝癌細胞株 / U3 / CAP / LOH / レトロトランスポゾン
【研究成果の概要】
放射線誘発B6C3Flマウス肝癌における遺伝子変異を解析する目的で、mRNAの発現レベルが変化している遺伝子の同定とLOH解析を行った。材料として、B6C3Flマウス肝癌と、この肝癌を培養系に導入して樹立した肝癌細胞株を用いた。(1)原発肝癌において、正常肝組織に比べmRNAの発現レベルが変化している遺伝子の同定をdifferential display法で行った。原発肝癌で遺伝子発現が亢進している遺伝子として、ATPase inhibitor、ribosomal protein L35、plasminogen activator inhibitor、apolipoprotein A-IV、及び3-hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A(HMG-CoA)synthaseを同定した。一方、遺伝子発現が減少している遺伝子として、UDP glucuronosyltrans-ferase-2、4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenase、及びphospholipid scramblaseを同定した。(2)培養肝癌細胞には、4番染色体のLci領域に高頻度にC57BL alleleの欠失するLOHが存在した。(3)軟寒天培地でコロニー形成能を有する肝癌細胞株に強発現するmRNAの同定を行った。解析の結果、レトロトランスポゾンVL30とSDF-II遺伝子と相同性を有するSDF-III(仮称)新規遺伝子を同定した。VL30が強発現する臓器は、精巣、卵巣、副腎であった。VL30は、原発性肝癌でも強発現していた為、その発現制御を解明する目的で、VL30の発現制御領域U3を解析した。その結果、正常肝組織ではVL30 subgroup3が弱発現しているが、癌化に伴いsubgroup3からsubgroup1にVL30の発現が変化する事が判明した。一方、SDF-III遺伝子をプローブとしてそのヒトホモログをクローニングした。この遺伝子は、マウス、ヒトともに精巣、卵巣で強発現、骨髄で中程度の発現が見られた。SDF-III蛋白の構造から、この蛋白はlumlinal ER蛋白で、酵母のprotein mannosyl transferaseと相同性を有することから、分泌蛋白に糖鎖を転移するシャベロン蛋白と推定された。
相同的組み換えに関与するRAD52 epistasis groupの遺伝子と発がんとの関係を解析した。原発性の乳癌、大腸癌、リンパ種において、相同的組み換え遺伝子RAD54の機能領域に変異がある事を世界で最初に見いだした。さらに、RAD54のヒトホモログRAD54Bをcloningし、その変異を原発腫瘍で解析した。その結果、リンパ種と大腸癌では、RAD54B遺伝子の保存領域において両側性に変異がある事が判明した。以上の結果は、ある種のがんでは、相同的組み換え遺伝子群の変異が遺伝的不安定性を誘導し、その結果、がんが発生する事を示唆する。
【研究代表者】