新規な分子キャビティを活用した安定なセレネン酸および関連化合物の研究
【研究分野】有機化学
【研究キーワード】
セレネン酸 / セレノール / グルタチオンペルオキシダーゼ / 酸化 / 立体保護 / X線結晶構造解析 / 反応場 / カリックス[6]アレーン
【研究成果の概要】
セレネン酸はグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)の活性中心に出現する中間体として注目を集めているが、極めて不安定であるために研究が困難な化学種であった。本研究では、独自に開発したbowl型分子キャビティを活用することにより、セレネン酸を安定に合成・単離するとともにその構造および反応性を解明することを目的として検討を行った。官能基周辺に酸素などのヘテロ原子を含まない不活性なbowl型置換基として、側鎖にm-テルフェニルユニットをもつ新規な置換基(Bmt基)を有するセレノールを合成した。セレノールからセレネン酸への酸化過程は、GPX触媒サイクルにおいて過酸化物を無毒化する重要な過程であるが、これまで直接観測はおろか捕捉実験による確認すら報告されていない。Bmt基を有するセレノールを過酸化水素により酸化したところ対応するセレネン酸が主生成物として生成し、シリカゲルクロマトグラフィーにより77%の収率で単離することができた。酸化剤としてヨードソベンゼンを用いた場合にも、同様にセレネン酸を得ることができた。単離されたセレネン酸は、固体状態、溶液中いずれにおいても高い安定性を示し、重トルエン中80℃で1日加熱しても変化は見られなかった。このセレネン酸のX線結晶構造解析を行ったところ、剛直なm-テルフェニル基がSeOH基をbowlの縁のように取り囲み、自己縮合を抑制していることがわかった。また、このセレネン酸とチオールとの反応では、対応するセレネニルスルフィドが定量的に得られた。このうちジチオスレイトールとの反応生成物に三級アミンを作用させたところ、セレノールへの還元が進行した。以上により、GPXの触媒サイクルとして提唱されている3過程を、初めて実験的に示すことができた。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1998 - 1999
【配分額】2,100千円 (直接経費: 2,100千円)