放射線誘発甲状腺発がん過程の網羅的分子病理解析: miRNAと変異シグネチャー
【研究キーワード】
Radiation-induced cancer / Animal model / Thyroid cancer / Atomic bomb survivors / Radiation signature / 甲状腺 / 放射線 / 変異シグネチャー
【研究成果の概要】
我々は、動物モデルと被爆者腫瘍組織を用いて放射線発がんの分子病理学的特徴解析を推進している。これまでにラット放射線誘発甲状腺発がんモデルにより、被ばく後がんに至るまでの分子変化を経時的に解析し、mRNA発現解析にて、がん発症以前からDNA損傷応答、細胞周期調節系、細胞接着因子の有意な変化を認め,非照射群と比較し照射群ではがん,非がん組織ともに,atm,53bp1,xrcc4発現は低下,cdk1,cdkn1a,cdkn2a発現は亢進,cldn4,cldn9,ctnnb1発現は低下を示すことが判明した。その中で4Gy照射16ヶ月後の非腫瘍組織でいくつかのバイオマーカー候補を同定し、droplet digital PCRによるcdkn1a mRNA発現亢進が被ばく甲状腺の良い指標になることを報告した。さらに、被ばく甲状腺発がんの分子疫学的特徴のひとつである、若齢被ばくによるリスク亢進メカニズムについてラットモデルで解析した。これまでの検討で、急性期応答として、増殖活性が高い若齢では、高齢と比べ照射後急激に増殖細胞数が低下し、アポトーシスは誘導されず、オートファジー関連分子の発現が亢進することが判明した。一方、若齢被ばくラット甲状腺組織では、高齢被ばく群に比べ高率かつ多発性に腫瘍が発生し、発がん期においてオートファジーを構成する分子のmRNAの多くが減少する。発生した放射線誘発甲状腺がんでは、オートファジーの実行に必要な隔離膜の構成分子であるLC3とp62の発現が抑制されていることを見出した。これらの結果は、若齢被ばく甲状腺発がんリスク亢進がオートファジー不全に基づく事を示していて、さらにオートファジーの抑制による放射線誘発甲状腺発がんへの影響を検討する必要がある。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
吉浦 孝一郎 | 長崎大学 | 原爆後障害医療研究所 | 教授 | (Kakenデータベース) |
柴田 龍弘 | 東京大学 | 医科学研究所 | 教授 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2020-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)