X線結晶構造解析によるアミノアシルtRNA合成酵素の反応機構の解明
【研究分野】生物物理学
【研究キーワード】
トランスファーRNA / アミノアシルtRNA合成酵素 / X線結晶構造解析 / zinc finger / 蛋白質合成
【研究成果の概要】
1。高度好熱菌由来イソロイシルtRNA合成酵素(IleRS)のX線結晶構造解析
我々はすでに高度好熱菌IleRSの結晶化(単斜晶系C2:a=160Å,b=95Å,c=128Å,b=128Å)に成功していたが、この結晶の水銀化合物置換体、メチオニンをセレノメチオニルに置換したIleRS、イソロイシルAMPのヨード化アナログを結合させた置換体、新たにシステイン残基を導入した変異体IleRSの水銀置換体を用いて、重原子同型置換法により位相決定に成功し、2.8Å分解能での構造を決定することに成功した。高度好熱菌IleRSは、Rossmann foldを含む触媒ドメイン、それに挿入されたβシート構造に富むCP-1およびCP-2ドメイン、tRNAのアンチコドンを認識するα-helix bundleから成るドメインの計4ドメインが緊密に結合して、rigidなL字型構造をとっていた。近縁なMetRS(大腸菌由来)と比較すると、触媒ドメインおよびC端側のα-helix bundleドメインは構造が非常に良く似ているのに対し、CP-1およびCP-2ドメインは構造が全く異なっていた。このCP-1およびCP-2ドメインは、興味深いことに4つのシステイン残基からなる新規のタイプのzinc fingerを持ち、それぞれZn2+イオンを結合していた。IleRSとtRNAIleのドッキングモデルを作成したところ、CP-1ドメインの根本のZn2+イオンは、tRNAIleのアクセプターステムに近接しており、アクセプターステムの認識に寄与していることが示唆された。さらに、このIleRSの結晶にイソロイシンをsoakingしたところ、触媒部位周辺でイソロイシンに対応する電子密度が見いだされた。基質であるイソロイシンの疎水性側鎖は、ProムおよびTrp558によってvan der Waals相互作用による認識を受けていると考えられる。
2。高度好熱菌由来きバリルtRNA合成酵素(ValRS)およびアルギニルtRNA合成酵素(ArgRS)の結晶構造解析
高度好熱菌からValRSおよびArgRSの遺伝子をクローニングし、大腸菌での大量発現系の構築に成功した。高純度に精製されたValRSおよびArgRSを用いて結晶化のスクリーニングを行ったところ、予備的ではあるがいずれも結晶の作成に成功した。このうち、ArgRSに関してはRaxisIVにより回折強度を測定したところ、六方晶系に属し分解能は4Å程度の結晶であることがわかった。現在、これら酵素単独の結晶化条件の改良を進めている。さらに、いずれの系においても特異的なtRNAをT7 RNA ,polymeraseを用いてin vitroで調製し、酵素との複合体の結晶化を試みている。またアミノ酸配列を決定した結果、高度好熱菌のValRSはIleRSと同様、触媒ドメインに挿入されたCP-1およびCP-2ドメインにIleRSと良く似たzinc fingerを持っており、ValRSの構造解析を行いIleRSと比較することは、酵素の分子進化機構を探る上で極めて重要であると考えられる。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1996
【配分額】1,000千円 (直接経費: 1,000千円)