ゲノム異常とエピゲノム異常によるATLの協奏的クローン進化メカニズムの解明
【研究キーワード】
ゲノム / エピゲノム / HTLV-1 / ATL / クローン進化 / 遺伝子異常 / EZH2 / ゲノム異常
【研究成果の概要】
これまでの解析総数として、HTLV-1キャリア、HAM、ATL、累計120症例、及び正常T細胞を対象に、RNA-seqを用いて全遺伝子発現解析を実施し、ATL細胞の基盤となる基本的性質がキャリア体内ですでに形成されていることを証明した。
感染細胞のエピゲノム異常の形成メカニズムを明らかにするために、HTLV-1 TaxのChIP-seq解析を実施した。Taxは、宿主細胞のクロマチンに結合し、クロマチン構造、ヒストン修飾パターンなどのエピジェネティックな性質をゲノムワイドに変化させることで、慢性的な遺伝子発現変化を引き起こすことを明らかにした。さらに、感染者で見られる異常なクロマチン構造は、ヒト化マウス感染モデルにおいても再現された。以上の結果から、腫瘍化に重要なエピゲノム特性が、腫瘍ウイルスの感染によって初期に形成されていることを明らかにした。
さらに、感染者から継時的に採取したPBMCを対象に、シングルセルRNA-seq/ATAC-seqを実施し、1細胞単位の統合解析を実施した。遺伝子変異、ウイルス遺伝子発現、プロウイルスを検出することで、高感度に感染細胞や悪性細胞を解析できる新たな解析プラットフォームの確立に成功した。感染細胞は長期潜伏期に多段階で遺伝子変異を獲得することで徐々に変化し、腫瘍細胞へと進化することを見出した。特に、腫瘍細胞特異的なエピゲノム異常の初期形成や、遺伝子変異によるTCR経路、NOTCH1経路などの複数のシグナル伝達経路の異常な活性化が重要性であることを明らかにした(Nat. Commun., 2021)。一方、未発症の感染者体内には、エピゲノム特性の異なる感染細胞の多様性が見られ、そのうちの一部は高悪性度細胞の特性を保持していた。また多様なエピゲノムパターンの中から、細胞増殖に関わる遺伝子などの発現を助長する特徴的な共通エピゲノム特性を見出すことにも成功した。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2021-04-01 - 2024-03-31
【配分額】4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)