乳癌嫌発系COPラットから乳癌抑制遺伝子Mcs-lの同定と機能解析
【研究分野】実験病理学
【研究キーワード】
Copenhagenラット / 乳癌 / 発癌感受性 / 放射線誘発乳癌 / 分化 / 乳癌抑制遺伝子 / Mcs-l / 乳癌嫌発系ラット / ラット乳腺上皮細胞 / コペンハーゲンラット / Mcs-1 / 乳腺細胞株
【研究成果の概要】
乳癌嫌発系Copenhagen(COP)ラットは、常染色体優性遺伝子Mcs-1により化学発癌剤による乳癌誘発が抑制される特異なラットである。Mcs-1は、乳腺細胞の分化を制御していると推定されている。放射線はDNAの二重鎖切断などの遺伝子損傷を誘発し、化学発癌剤とは異なる分子機構で乳癌を誘発すると推定されている。そこで、Mcs-1遺伝子の機能解析をする一助として、Mcs-1遺伝子が放射線誘発乳癌を抑制するか否かを検討した。まず、COPラットに3Gyの^<60>Co γ線を照射し、乳癌誘発を検討した。比較のために、化学発癌剤に高感受性のWistar/Furth(WF)ラットと中感受性のF344ラットを用い同様の実験を行った。同時に、N-methyl-N-nitrosourea(MNU)による乳癌誘発実験も合わせ行った。
WF及びF344ラットはMNUに高感受性で、全例に乳癌が誘発されたが、COPラットは抵抗性で、乳癌発生は低率であった。MNU誘発乳癌では、WFまたはF344ラットに誘発された乳癌の75%以上が乳頭癌だったのに対し、COPラットではその発生を認めなかった。このことが、Mcs-1遺伝子により制御されたCOPラットの遺伝的抵抗性と直接的に関係するものと考えられた。一方、^<60>Co γ線誘発乳癌では感受性に系統差を認めず、COPラットにも誘発乳癌の90%に乳頭癌を認めた。したがって、放射線誘発乳癌の感受性は、Mcs-1遺伝子とは異なる遺伝子群により制御されていると考えられる。これら乳癌は、腺房の分化抗原に対する抗体を用いた免疫組織学的解析の結果、MNU誘発乳癌より分化した癌であった。また、MNU投与ラットには乳腺腺腫の発生を認めなかったが、放射線は3系統のラットに乳腺腺腫を誘発し、COPラットでその頻度が最も高かった。これら腺腫は放射線誘発乳癌と類似した分化抗原を有した。COPラットの腺腫を同系ラットに移植すると、estrogen依存性の増殖を示し、乳癌に進展した。また、COPラット腺腫の組織内には微小乳癌の発生を認めた。これらの所見は、放射線と化学発癌剤は異なる発癌経路、あるいは異なる乳腺標的細胞からなる乳癌を誘発することを示唆する。COPラットに放射線により比較的高頻度に乳癌や腺腫が誘発されたことは、このラットの乳腺がMcs-1遺伝子の機能により遺伝的に高分化状態に誘導されていることと関係するかもしれない。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
隅井 雅晴 | 広島大学 | 原爆放射能医学研究所 | 助手 | (Kakenデータベース) |
宮川 清 | 広島大学 | 原爆放射能医学研究所 | 教授 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】萌芽的研究
【研究期間】1997 - 1998
【配分額】2,200千円 (直接経費: 2,200千円)