実験動物における薬剤耐性菌の出現と意義
【研究分野】実験動物学
【研究キーワード】
薬剤耐性 / 実験動物 / 腸内細菌そう / 大腸菌 / レンサ球菌 / ブドウ球菌 / MRSA / 院内感染モデル
【研究成果の概要】
1960年代および1980年代の私たちの検索によれば,実験動物の常在細菌叢から化学療法剤に対する薬剤耐性菌が分離されることは稀で,感染病対策としてこれらの薬剤が予防的に投与されている実験動物における薬剤耐性菌の出現も一過性で,さまざまな薬剤耐性菌がヒトや家畜に濃厚汚染している状況とは大きく異なっていた.実験動物やヒトや家畜における薬剤耐性菌の分布の相違に関する機序解明は興味深く,それ自体重要な研究課題であるが,それは別として,実験動物には薬剤耐性菌が常在しないという現象を利用して,薬剤耐性菌の院内感染解析のための動物モデルが確立出来ないかと考えて本研究を企画した.研究開始にあたっては,少なくとも化学療法剤との接触歴がない実験動物からは薬剤耐性菌が検出されないという私たちの過去の知見の確認が必要である.予備的な調査で,九州には化学療法剤を投与している実験動物繁殖施設と動物実験施設ならびに投与していない同様の施設が独立的の存在していることが確認できたので,それぞれ5か所の繁殖施設と実験施設からマウス,ラット,モルモット,ウサギを入手し,糞便中の大腸菌,レンサ球菌,ブドウ球菌を分離して,アンピシリン,テトラサイクリン,ゲンタマイシン等の9種類の化学療法剤に対する薬剤感受性を検索した.その結果,ほとんどの菌株がいずれかの薬剤に耐性をもち,多様なパターンの薬剤耐性菌が実験動物から広く検出された.薬剤耐性菌は,化学療法剤の使用歴がまったくない実験動物からも分離された.これは,実験動物からは原則として薬剤耐性菌が分離されないとする過去の私たちの知見と反し,実験動物の常在細菌叢において薬剤耐性化が進行していることを示唆し,実験動物の衛生管理に関する従来の方針の見直しを迫るものである.また,実験動物を用いた院内感染解析の動物モデルを作出するという当初の私たちの意図は断念せざるをえない.
【研究代表者】
【研究分担者】 |
下田 耕治 | 慶應義塾大学 | 医学部 | 助手 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】一般研究(C)
【研究期間】1994 - 1995
【配分額】2,100千円 (直接経費: 2,100千円)