低次元有機単結晶における新規熱輸送現象の解明と制御
【研究キーワード】
熱伝導度 / 熱拡散率 / 比熱 / 有機単結晶 / πースタック / 異方性 / 低次元系 / 熱輸送特性
【研究成果の概要】
近年熱マネージメントを目的とした熱輸送研究が盛んに行われているが、有機物質の熱輸送研究はほぼ未開拓の領域である。有機物質の熱輸送特性を明らかにするためには、化学結合、分子間相互作用、分子ダイナミクスといった物質の構造に由来する特徴と熱輸送特性との相関を明らかにすることで初めて達成される。本研究では、構成分子の配向や位置等の秩序を含め、X線構造解析により構造が明確に規定できる有機単結晶の熱輸送特性を明らかにすることで、新たな熱輸送の基礎学理構築を目指す。対象としたのは、トリフェニレンヘキサカルボン酸メチルエステル(TP)と呼ばれる分子から成る単結晶である。TP単結晶は高秩序なπ-スタックカラム構造を有する物質であり、いわゆる擬1次元系を成す。このようなπ軌道の重なりから成るスタック構造は、電荷や励起エネルギーの輸送経路を提供することや低次元系特有の現象が観測されることが良く知られているが、熱輸送との相関については明らかになっていない。本研究では東京工業大学 森川研究室および川路研究室と協働でTP単結晶の熱拡散率(α)、比熱(C)、密度(ρ)の温度依存性を測定し、κ=αCρの関係式から熱伝導度(κ)の温度依存性を評価した。さらに温度波熱分析法(TWA)を用いたことで、μmオーダーの長さを持つ単結晶の熱拡散率を測定することが可能となり、結晶の短軸となる⊥π-スタック方向の熱伝導度も評価することが可能となった。その結果室温において//π-スタック方向の熱伝導度は⊥π-スタック方向の2倍もなく、π-スタック構造の熱輸送への寄与は小さいことが示唆された。しかし熱伝導度の温度依存性に関しては、//π-スタック方向は一般的な絶縁体物質の熱伝導度の振る舞いに近い一方、⊥π-スタック方向は非晶性物質の熱伝導度の振る舞いに近く、結晶軸方向により大きく異なることが明らかになった。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究
【研究期間】2021-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)