ベーシック・サービスとしての居住支援に関する社会学的基礎研究
【研究キーワード】
居住支援 / 居住保障政策 / ベーシックサービス / ベーシックアセット / 普遍主義 / コモンズ / ハウジング・マネジメント / ベーシック・サービス
【研究成果の概要】
本研究の目的は、「居住支援」にかかわる諸実践の特質を、理論的な検討と経験的な調査を通じて明らかにすることである。居住支援は、2000年代半ばに住宅政策に導入された概念であるが、福祉政策にも浸透しつつある。住宅政策の居住保障政策への転換において、サービスが一つの焦点となりつつあるものの、日本では研究蓄積が乏しい。そこで本研究では、2010年代半ばに英国で提唱された「ユニバーサル・ベーシックサービス」(UBS)という政策構想に着目した。支払い能力に関係なく、誰もが必要とする基礎的・基幹的なサービスを受ける権利を保障するというのが、UBSの理念である。UBSは居住保障を重視しているが、資源の分布のパターンが医療や教育と大きく異なるため、その手段は選別的とならざるを得ない。この普遍主義と居住保障の矛盾を打開するための手がかりを与えると思われるのが、UBSと前後して北欧および米国で提起された「ユニバーサル・ベーシックアセット(UBA)」の考え方である。UBAの特徴は、UBSが重視する公的な資源に加えて、コモンズというアセットに着目する点である。もっとも、UBSとUBAには重要な共通点が存在する。それは、受益者であるとともに、貢献者としての市民が想定されていることである。このことは、私たちがふだん意識することのないサービスという言葉の含意とかかわる。サービスは、たんに市場で売買される商品にとどまるものではなく、「社会」そのものを再生産する営みである。このとき、コモンズとしてのアセットは、UBSとUBAのつなぎ目に位置している。UBSとUBAがともに居住保障を重視するのは、居住がサービスの二重性が顕著にあらわれる領域であり、社会の再生産の可否がするどく試される現場であるからに他ならない。この意味で、居住支援とは、社会が社会であり続けるための条件をととのえる仕事なのである。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2021-04-01 - 2024-03-31
【配分額】3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)