バイオフィルム形成初期過程の制御に向けた細菌付着のナノメカニズムの解明
【研究分野】生物機能・バイオプロセス
【研究キーワード】
バイオフィルム / 微生物付着 / 細菌ナノファイバー / オートトランスポーター / アドヘシン / ピリ / Acinetobacter / 接着蛋白質 / 細胞接着 / セルアペンデージ / DLVO理論 / 付着因子 / FE-SEM
【研究成果の概要】
本研究では、固体表面への付着性が非常に高いトルエン分解細菌Acinetobacter sp.Tol5の付着機構をナノレベルで解明し、バイオフィルム形成の初期過程である細菌付着の制御技術開発のための知見を得ることを目的とした。
まず、Tol5株細胞上に二つの異なる粘着性ナノファイバーを発見した。一つはピリ様の周毛性繊維であり、他方はこれまでに報告のない直線状の構造物で"アンカー"と名付けた。アンカーは、表面から数百nmも離れた距離から紐でつながれた風船のように細胞を固定する。次にトランスポゾン挿入変異により、付着性が野生株WTの1/10ほどに低下した変異株T1を取得した。T1は二種類のナノファイバーを失っていた。T1細胞は、既報の細菌と同様に、イオン強度が低下するにつれて表面への付着性が低下し、あるイオン強度以下では全く付着できなくなった。一方WTは、イオン強度に全く依存しない付着性を示した。よって、長いナノファイバーにより、Tol5株はこれまで微生物細胞の付着を記述してきたDLVO理論に従わない付着をすることが示された。さらに、WTは30秒の接触時間で不可逆的な付着を達成したが、T1の付着はこの段階では可逆的であった。このような細菌細胞と付着表面との素早い長距離相互作用の報告例はなく付着の概念の変更を迫る。さらにアンカーは細胞同士も長距離で結ぶ。一方周毛性繊維は、近距離で細胞を表面に強固に固定したり、巨大な細胞凝集塊を形成したりするのに働く。ナノファイバーを欠損したT1細胞は、付着力が低下しているだけでなく自己凝集性も失っているが、表面の疎水性は維持している。そのため、T1株は水相中に分散させた油滴表面に可逆的に単相吸着することが明らかとなり、ラングミュア吸着等温式で表記した。分子解析により、Tol5は粘着ファイバーの一種である三量体型オートトランスポーターアドヘシンとタイプ1ピリを有していること、T1では前者の遺伝子が破壊されているが、後者の遺伝子発現レベルも低下していることが明らかとなった。
【研究代表者】