大腸菌進化実験を用いた環境適応ネットワークの構成的理解
【研究分野】構成的システム生物学
【研究キーワード】
環境適応ネットワーク / 大腸菌 / 進化実験
【研究成果の概要】
生物システムは動的に変化する環境条件に対し、柔軟にその内部状態を変化させることによって適応をする能力を持つ。近年の分子生物学の発展は、その適応に関与する多くの要素を同定した一方で、こうした複数の構成要素からなる環境適応ネットワークが、進化の過程によってどのように出現したかについては、不明な点が多く残されている。そこで本研究では、多数の異なる環境下での大腸菌進化実験を行い、その進化ダイナミクスをトランスクリプトーム解析やゲノム変異解析によって定量する。そうした定量データに基づき、細胞モデルの進化シミュレーションを援用しつつ、環境適応ネットワークの進化ダイナミクスが持つ一般的な性質を明らかにする。
平成28年度は、96種類の異なるストレス(酸・アルカリ・重金属・抗生物質など)を付与した環境下での大腸菌の進化実験系を実施した。それぞれのストレス環境下において、6つの独立系列で30日程度の植え継ぎ培養による進化実験を行い、87種種類の環境においてストレス耐性能(最小阻害濃度)の有意な上昇を観測した。これらの耐性株について、ゲノム変異解析のためのサンプル取得と、トランスクリプトーム解析のための実験系の構築が完了しており、29年度に定量データの取得を行う。また並行して、単純化した細胞モデルの計算機シミュレーションと理論解析により、表現型進化が少数次元のダイナミクスによって拘束される現象を見出した。この結果は、大腸菌の進化実験の結果においても、トランスクリプトーム空間において可能な表現型の変化が少数次元の空間に拘束されていることを示唆している。今後、この予測を定量的に評価し、環境適応と進化のダイナミクスと、それをもたらすネットワークが持つ一般的な性質を明らかにする。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(B)
【研究期間】2015-07-10 - 2018-03-31
【配分額】18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)