誘電異常を伴う三角格子反強磁性体における新物性の探索
【研究分野】固体物性Ⅱ(磁性・金属・低温)
【研究キーワード】
三角格子反強磁性体 / スピンフラストレーション / 強誘電体 / 相転移 / 誘電体
【研究成果の概要】
本研究のねらいは、近年の磁性物理の主要な対象であったスピン・フラストレーションが顕著に現れる六方晶ABX_3型三角格子系において、フラストレーションの解消が相転移や臨界現象に如何なる修正を与えるかを明らかにすることに端を発している。そのために、構造相転移に伴って磁性Bイオンの正三角形配列が変形し、フラストレーションが部分的に解消しているKNiCl_3型結晶群の磁気相転移と達成される磁気構造を磁気測定と誘電測定を併用して系統的に検討し、誘電性と磁性に関わる新属性:反強磁性と強誘電性の共存・競合、磁気相転移誘起誘電異常などを見いだしている。
今年度は、特に、RbVBr_3及びRbCoBr_3の磁気相転移で現れる誘電異常のメカニズムを特定する目的で、磁場中での誘電率、自発電気分極、焦電気、磁化率、比熱の温度依存性を測定した。その結果、全く新しい現象としてRbCoBr_3の37K以下において、弱強磁性と強誘電性が互いに秩序化することを発見した。弱強磁性が結晶c軸に垂直な面内で現れるため、まず、従来から六方晶ABX_3のCo^<2+>はIsing型の典型とされてきたスピン系の対称性にxy成分が有意な効果を持つことを示唆している。次に、c軸方向に強誘電性を示すことから、37K以下で極性結晶の対称性をとることが特定された。その結果、メソスビン系と考えられるRbVBr_3において以前、本研究班員である田中が考察したRbVBr_3の弱強磁性の説明に用いたジャロシンスキー・守谷相互作用を考慮すると、弱強磁性と強誘電性の共存が説明できることを確認した。ただし、RbCoBr_3のさらに低温の10K近傍の誘電率の山の発現機構についてはまだ見通しはない。なお、RbVBr_3r3の磁気相転移近傍に現れる誘電率の山の謎は、その温度領域で強誘電性が現れれば、RbCoBr_3と同様な機構で誘電異常が説明できる可能性がでできた。
今後、本研究では、これらと同族結晶について磁場中での誘電率あるいは電場中での磁化率などの複合外場下での物理量の測定を進め、新しい物性の探索、並びに、その発現条件の解明を目指して、格子系と磁気系双方の視点からこれらの現象の統一的整理を行っていく。
【研究代表者】