近現代アメリカ文学のレジスタンス思想
【研究キーワード】
アフリカ系アメリカ文学 / リチャード・ライト / 実存哲学 / ニーチェ / 第二次世界大戦 / ナチズム / 冷戦 / マッカーシズム / アメリカン・ルネサンス / ヘンリー・ソロー / ハーマン・メルヴィル / 自然史 / フロンティア / 反帝国主義 / 人権 / 基本的人権
【研究成果の概要】
アフリカ系アメリカ文学の開拓者であるリチャード・ライト(1908-60)の第二長編小説を中心に、現代アメリカ文学のレジスタンスを研究した。ライトは、人種問題を告発する『アメリカの息子』(1940)によって20世紀アメリカ文学の前衛に立った。しかし、渡仏して亡命作家となった後に著す第二長編小説『アウトサイダー』(1953)は、必ずしも理解を得られなかった。アメリカの批評家は一様に、ライトが祖国に根差す創造力を失ったと考えた。
本研究は、冷戦構造と実存哲学という二つの観点から、犯罪小説『アウトサイダー』を再評価した。20世紀中葉の社会状況下にライトが強めた問題意識を探るため、ニューディール以降の人種政策と、マッカーシズムの言論抑圧について調査した。ライトは過去の共産党員歴ゆえに、渡仏後もアメリカ国家機関の標的となる。ライトの描く暴力の連鎖は全体主義化する世界を照射することが、社会史と伝記の検証を通して浮上した。作品研究では、従来の批評で等閑視されてきた犯罪捜査官の視点から、登場人物の発話分析を行った。小説のエピグラフに掲げられたニーチェの箴言に注目し、ライトの創造意図に迫ることが分析の核となった。ナチズムによってニーチェ哲学が歪曲された第二次世界大戦期の思想受容史を辿り、その上で小説の根底にある思惟を解読した。ライトが実存哲学の「力への意志」に対する理解に基づき、世界戦争と主人公の犯罪とを同時に断罪していることを、一連の考察により論証した。
アメリカを去って亡命作家となったライトは、冷戦構造を地球規模の視野で捉え、人間を国家主義の呪縛から解き放つ創造を展開した。本研究は、既存の批評を問い直し、ライトの問題作に新たな評価を加えた点で意義深い。成果を「戦争の世紀――リチャード・ライトの『アウトサイダー』」と題する論文に発表した。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2020-04-01 - 2024-03-31
【配分額】2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)